『いだてん』あれこれ「箱根駅伝」2019-05-21

2019-05-21 當山日出夫(とうやまひでお)

『いだてん~東京オリムピック噺~』2019年5月19日、第19回「箱根駅伝」
https://www.nhk.or.jp/idaten/r/story/019/

前回は、
やまもも書斎記 2019年5月14日
『いだてん』あれこれ「愛の夢」
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/05/14/9072244

この回で描いていたのは、箱根駅伝。

箱根駅伝といえば、今では、お正月の恒例行事になっている。それが、オリンピックのマラソン予選として始まったということは、このドラマで知った。(たぶん、これは、史実にもとづいていることなのだろう。)

だが、次のオリンピック……ベルリンのオリンピックが中止になって、八年ぶりに開催のオリンピックである……において、マラソンは、競技種目からはずされるらしい。しかし、そのことを、嘉納治五郎は、四三になかなか言い出せないでいる。

ただ四三はひたむきである。オリンピックに出る、マラソンに優勝する、このことだけを夢みて頑張っている。マラソンで優勝する気でいる。

このような四三のオリンピックにかける情熱を描きながら、ナショナリズムを感じさせない作りになっているのは、そのように意図してあるからなのだろう。オリンピックに出場すると決心している四三であるが、国(日本)を代表しているという悲壮感のようなものは、ほとんど感じさせない。

それは、あまりに大真面目に四三の姿を描いているせいだろう。大真面目になればなるほど、その姿は、傍目から見れば、どことなく滑稽さをともなうものである。

また、ここにきて、日本のマラソン界を代表する立場になっている四三であるが、熊本方言のままである。時代は大正時代だから、ここは、標準的な日本語であっていいはずのところだが、そうは描いていない。この熊本方言の感じさせるリージョナリズム(地方主義)が、ナショナリズム(国家主義)を、緩和する働きをしていると、私は見ながら思っている。

ところで、この回は、日本初の箱根駅伝を、落語で語ってみせていた。しかも、駅伝落語という趣向である。これはこれとして、非常に斬新な試みであったと思う。特に、孝蔵役の森山未來の使い方がうまかった。話し(落語)もうまい。

たしかに、このドラマ、大河ドラマとしては、いろいろ新機軸を打ち出していることは分かる。そしてそれはある程度成功しているだろう。

しかし、そのこと、つまり、この回全体としてみれば、日本初の箱根駅伝を、ドタバタ喜劇風に描くということが、成功したかどうかは、また微妙かもしれない。が、これも、日本を背負って走る、母校の栄誉を担って走る、ということだけであるならば、それはそれとして、いろいろ問題のあることだろうとは思う。そのあたりのところを、ドタバタ喜劇風の描写でさらりと流して描いてみせたのは、脚本のうまさということになるのかと思っている。

オリンピックということで、国を代表して参加する、国家を背負って戦う、このことの悲壮感、責任感、さらには、金メダルを取るということの意味、このあたりのことを、このドラマは、これからどのように描いていくことになるのか、楽しみに見ることにしたい。また、これから、オリンピックを落語とどうからめて描くことになるのか、これにも期待したい。

追記 2019-05-28
この続きは、
やまもも書斎記 2019年5月28日
『いだてん』あれこれ「恋の片道切符」
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/05/28/9077891