『村上春樹を読みつくす』小山鉄郎2019-07-01

2019-07-01 當山日出夫(とうやまひでお)

村上春樹を読みつくす

小山鉄郎.『村上春樹を読みつくす』(講談社現代新書).講談社.2010
http://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000210557

続きである。
やまもも書斎記 2019年6月29日
『村上春樹は、むずかしい』加藤典洋
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/06/29/9092980

著者(小山鉄郎)は、共同通信の記者。それが、二〇〇八年から、「風の歌 村上春樹の物語世界」と題して、地方紙に連載した。この本は、それを基本にまとめたものである。

文芸評論、文学研究という立場からのものではなく、通信社記者として、新聞の読者に村上春樹の作品を紹介するという立場が、基本にある。また、この連載を書くにあたって、村上春樹にも直接インタビューなどしている。

この本の読みどころは、次の二点だろうか。

第一には、村上春樹文学が、広く社会に受け入れられていることの分析。いやそうではなく、そのように分析可能なものとして、村上春樹の作品が書かれていることを確認できると言ったほうがいいだろうか。

この本では、村上春樹の作品……『1Q84』までになるのだが……を対象にして、様々な解釈を提示している。異界は無論のこと、中国であり、ベトナム戦争であり、学生運動であり、音楽であり……およそ村上春樹の作品を論じるにあたって、キーとなりそうな概念や物事について、多彩な蘊蓄を披露してくれている。

これは、実に読んでいて楽しい。これまで、この本で取り上げられている村上春樹の作品(長編、短篇)を読んだ後で、この本を読むと、なるほど、あの作品のあの箇所は、こんなふうに解釈できるのか、と思わず納得するところが多くある。(ただ、部分的には、ちょっと牽強付会かなという気がしないでもないが。)

第二には、この本を書くにあたって、通信社の記者として村上春樹にインタビューしている、そのときの村上春樹のことばが、書きとどめられていることである。これは、おそらく、今後の村上春樹研究において貴重な証言になるにちがいない。

まあ、作者自身が、自分の作品のことについてどう言っているかは、テクスト論の立場からは、いろいろ意見があるかもしれないが。

以上の二点が、この本を読んで感じるところである。

新聞記事ということで書かれた本である。文学研究として書かれたものではない。この意味では気楽に読んでいい本だと思う。しかし、何故、村上春樹の作品が、このように広く世界の人びとに受容されているのか、ということを考えるには、いろんなヒントを提供してくれる本だと思う。

追記 2019-07-04
この続きは、
やまもも書斎記 2019年7月4日
『世界は村上春樹をどう読むか』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/07/04/9111158