『佐武と市捕物控 江戸暮しの巻』石ノ森章太郎2019-07-12

2019-07-12 當山日出夫(とうやまひでお)

佐武と市捕物控え・江戸暮しの巻

石ノ森章太郎.『佐武と市捕物控 江戸暮しの巻』(ちくま文庫).筑摩書房.2019
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480435996/

石ノ森章太郎……だが、私の頭のなかでは、昔のように石森章太郎と書いた方がわかりやすいのだが……の「佐武と市」のシリーズが、ちくま文庫で三冊で刊行になる。その第一冊目である。(出た時に、先月のうちに買って読んだのだが、村上春樹について書いていて、順番として遅くなってしまった。そうこうしているうちに、第二冊目が刊行になってしまっている。)

「佐武と市」は、若い時、というよりも、おさない時といった方がいいだろうか、漫画で読んだのを憶えている。解説(中野晴行)によると、一九六六に「週刊少年サンデー」からスタートしたとある。私が読んだのは、たぶんこれになるだろう。その後、一九六八年に「ビッグコミック」が刊行になって、そこに連載の場を移したとある。

私は、「ビッグコミック」の読者ではなかった。まあ、学生のころ、喫茶店とかに入っておいてある漫画雑誌として手にしたような程度である。自分で買って読むということはしてこなかった。

この文庫本に収録の作品は「ビッグコミック」に掲載のものである。だから、子ども向けというよりも、大人向けの作品になっている。私の記憶にある「佐武と市」は、佐武の投げ縄の術など、少年漫画らしいアクションの場面があったかと憶えているのだが、それは、ここに収録されている作品を見ると出てこない。

巻末には、石ノ森章太郎の「「佐武と市捕物控」で捕えようとしたボクの江戸」という短い文章が載っている。これを読むと、大人向けの漫画雑誌を舞台として、「江戸」を描いてみたかったという意図が読み取れる。

私は、漫画にはうとい。専門的な漫画史の知識がない。だから、漫画の歴史において、「江戸」がどのように描かれたきたのか、そのながれをつかむことができない。ただ、今の観点から読んで見るということしかできない。

そのような観点から読んでみてであるが……作者が描きたかったのは、「江戸」であることが読み取れる。それを、漫画という表現においてどのように描くか、そこに作者なりの工夫と努力があったのだろうことも、理解されるところである。

この本を読んで思うことは次の二点になるだろうか。

第一には、〈捕物帖〉という時代小説ジャンルがあって、それを踏まえて、このような漫画作品がなりたっていることである。〈捕物帖〉は、時代小説であり、同時に、ミステリでもある。

第二には、「江戸」というイメージを、どのように視覚的に表現するか、特に、その情緒にかかわるところを、かなり工夫して描いているということである。読んで印象に残る作品としては、「蛇の目」がある。雨の描写が実にいい。

まあ、強いて批判的に見るならば、ここに描かれたような「江戸」は、近代になってからの幻想であるのかもしれない。だが、そうであるとしても、確固たるものして作者の描こうとした「江戸」が伝わってくる。

以上の二点が、第一冊目を読んで思うことである。

それから、この作品「佐武と市」は、確かテレビのアニメになっていたはずである。これも見た記憶がある。アニメとしては、その当時においても、かなり斬新な表現技法を駆使したものであったかと記憶するが、このあたりは、もう茫漠としている。

この続きも読んでおきたい。

追記 2019-07-23
この続きは、
やまもも書斎記 2019年7月23日
『佐武と市捕物控 杖と十手の巻』石ノ森章太郎
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/07/23/9132261