『どくとるマンボウ航海記』北杜夫2019-08-19

2019-08-19 當山日出夫(とうやまひでお)

どくとるマンボウ航海記

北杜夫.『どくとるマンボウ航海記』(新潮文庫).新潮社.1965(1987.改版) (中央公論社.1960)
https://www.shinchosha.co.jp/book/113103/

『どくとるマンボウ青春記』に続いて読んだ。

やまもも書斎記 2019年8月17日
『どくとるマンボウ青春記』北杜夫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/08/17/9141939

この本が最初に出たのは、一九六〇(昭和三五)年である。かなり古いといってもいいだろう。読んで見て、ああ、もうこの本は、古びてしまったかなと感じるところがないではない。今日のように、人びとが気楽に海外旅行に行ける時代となっては、この本に描かれたような海外の事情は、ただ歴史的な価値しかないように思えた。が、読み進めていってそうではないことに気付いた。やはりこの作品は、今日においても、読み継がれるべき価値を保っている。

この本を読んで感じるところは、次の三点だろうか。

第一には、ユーモアである。

北杜夫は、日本の近現代の文学のなかで、ユーモアにあふれた作品を書いている。代表作である『楡家の人びと』も、実にユーモアのある作品である。この本も、全編にユーモアがある。日本におけるユーモアの文学の系譜のなかに、この作品も位置づけることができるだろう。

第二には、ヒューマニズムである。

作者(北杜夫)は、作家であると同時に、医師でもある。その目からみた、世界の……主に東南アジア、中近東、ヨーロッパ、アフリカなど……人びとにむけるまなざしは、ヒューマニズムにみちている。新奇な海外の風習に対しても、ヒューマニズムを根底に感じさせる視点で、それをとらえている。

第三には、旅情である。

現代のように気楽に、国内はもとより、海外にも旅行に行けるようになって、かえって、旅の情緒というものが薄れてしまったのかもしれない。この『航海記』は、船旅である。今では、豪華客船による船旅は、贅沢なものになってしまった。しかし、この本においては、水産庁のマグロ調査船で、インド洋から、地中海をめぐっている。そこでたちよった先々での、様々なできごとが、旅情ゆたかに描きだされている。このように旅情を感じさせる文章というのは、現代においては、むしろ貴重かもしれない。

以上の三点が、この本を読んで感じるところである。

調べてみると、北杜夫の作品の多くは、今でも読める形で文庫本などでかなり刊行されている。私の若いころは、北杜夫はかなり人気があった作家である。その北杜夫が、今でも、人びとに読まれ続けているというのは、よろこばしいと感じる。

実は、未読である北杜夫の作品がいくつかある。代表作『楡家の人びと』については、すでに書いたことがある。

やまもも書斎記 2017年4月8日
『楡家の人びと』北杜夫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/04/08/8448584

この他の作品について、未読、再読をふくめて、読んで行ってみようと思う。続けて読んでみたいと思っているのは、『幽霊』である。

追記 2019-08-22
この続きは、
やまもも書斎記 2019年8月22日
『幽霊』北杜夫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/08/22/9144039

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