『うさぎおいしーフランス人』村上春樹2019-08-30

2019-08-30 當山日出夫(とうやまひでお)

うさぎおいしーフランス人

村上春樹.安西水丸(絵).『村上かるた うさぎおいしーフランス人』.文藝春秋.2007
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163689401

続きである。
やまもも書斎記 2019年8月29日
『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/08/29/9146784

はっきりいって、読んで何か得をするという本ではない。だが、読んでいてとてもたのしい、そんな本である。

タイトルに「村上かるた」とあるように、「あいうえお」からはじまって、順番に、かるた方式で短篇、いや掌編というべきか、を収めてある。どの作品も短い。見開き二ページにおさまるようになっている。

前書きにつぎのようにある。

「きっと僕の脳の中にはその手の「まったく世の中のためにはならないけれど、ときどき向こうから勝手に吹き出してくる、あまり知的とは言いがたい種類のへんてこな何か」が眠っているささやかな精神領域があるのかもしれません。」(p.2)

きっとこのような文章……駄洒落、ことばあそび……これは、おそらく漱石における俳句とか漢詩に類するものなのかもしれない。長編の小説を書くかたわらで、こんなことばあそびに戯れている姿は、どこかしらユーモラスでもある。

だが、ここには、まぎれもなく村上春樹の世界がある。この世界を、鏡……それもどこか歪んだ……に映してみたところにふとあらわれる別世界、そんな雰囲気が、この短い作品群のなかにも感じ取れる。村上春樹の文学を理解するために、読んでおくべき本だと思う。

次は、『使いみちのない風景』である。

追記 2019-08-31
この続きは、
やまもも書斎記 2019年8月31日
『使いみちのない風景』村上春樹
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/08/31/9147511