新潮日本古典集成『源氏物語』(四)2019-12-16

2019-12-16 當山日出夫(とうやまひでお)


石田穣二・清水好子(校注).『源氏物語』(四)新潮日本古典集成(新装版).新潮社.2014
https://www.shinchosha.co.jp/book/620821/

続きである。
やまもも書斎記 2019年12月9日
新潮日本古典集成『源氏物語』(三)
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/12/09/9186983

この本の前回は、
やまもも書斎記 2019年2月23日
『源氏物語』(四)新潮日本古典集成
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/02/23/9039568

新潮版で四冊目になる。「初音」から「藤裏葉」までをおさめる。

読んで思うことを書いておくと、次の二点になるだろうか。

第一には、玉鬘との関係である。

玉鬘は、夕顔の娘である。夕顔は、六条御息所の生き霊にとりころされてしまう。そのあたりのことは「夕顔」の巻に書いてあった。その娘(父親は頭の中将)が、都にでてきて光源氏のもとに身を寄せる。その玉鬘と、源氏とはどういう関係になるのだろうか。そうとはっきり書いてあるわけではないのだが、どうもあやしい。

母親(もう亡くなってしまっているが)と、その娘の両方に関係するのは、いささか不倫めく。このまま話が複雑な関係になってしまうのかと思いきや、突然に、玉鬘は髭黒の大将と一緒になってしまう。この髭黒の大将の一件、特に、その北の方の乱心ぶりは、いかにも唐突である。

『源氏物語』の成立論として、玉鬘系の物語が後から挿入されたとしても、それにしても、この髭黒の大将のことで終わってしまうのは、どうにも不可解な印象を持つ。たぶん、これは、後から書き足した玉鬘の物語を、強引に終わらせてしまうために仕方なく、このようなストーリーの展開になったのではなかろうかと思ってしまう。

嫉妬に狂った妻が夫に灰をあびせかける……これは創作というよりも、このような話が、説話として流布していたものを、とりこんだと感じるところがある。

第二は、特に「梅枝」にでてくる仮名についての記述。

今回は、特に、『源氏物語』と「文字」ということに関心を持って読んでいる。その目で見て、「梅枝」の仮名論議の部分は興味深い。「女手」は「仮名」なのであるが、しかし、「仮名」の一般をさす語ではなかったようである。「仮名」のなかでも、特にそれらしい書きぶりを称して「女手」といったと読み取れる。また、「仮名」とは別の文字として「草(そう)」があることになる。

以上の二点が、新潮版第四冊目を読んで思うことである。

それにしても思うが、もし玉鬘と髭黒の大将が結ばれるということなく、そのまま玉鬘が光源氏のもとで生きていくとしたら、どんな物語の展開があっただろうか。ここで紫の上は、どのように心を悩ませることになるのか、ここは想像してみるとかなり興味深い。

次は、いよいよ「若菜」の巻になる。『源氏物語』でもっとも中心的な部分である。

追記 2019-12-23
この続きは、
やまもも書斎記 2019年12月23日
新潮日本古典集成『源氏物語』(五)
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2019/12/23/9192818