『序の舞 下』宮尾登美子 ― 2020-02-14
2020-02-14 當山日出夫(とうやまひでお)

宮尾登美子.『序の舞』(下).朝日新聞社.1982
続きである。
やまもも書斎記 2020年2月13日
『序の舞 上』宮尾登美子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/02/13/9213137
上巻につづけて読んだ。上巻について書いたとき、その代表作である「焔」「花がたみ」を見たことについて書いた。下巻まで読んでくると、この二つの作品の制作の背景が語られる。いわゆる上村松園の美人画の系譜からすれば、この二つの作品は異色である。だが、そのなかにあって、きわだっている作品であるともいえる。
下巻まで読んで感じるところは次の二つ。
第一に、これまでも書いてきたように、宮尾登美子作品の底流にあるのは、市井の人びとの情愛である。普通に生きている人間の情感、愛憎といってもよい。
下巻では、特に印象的なのが恋。年下の男性との恋におちる。だが、それはみのることなく、おわってしまう。このあたりの主人公(津也)のこころのうちのゆれうごきが、実にこまやかである。さすがに津也の心情に共感するというところまではいかないが、しかし、そのこころのうちによりそって文章を読んでいくことになる。
この作品でも、老い、病、それから、親子の情、場合によっては確執ともなる……これら、悲喜こもごもの情感が、密度の高い文章でつづってある。
第二に、これはこの作品の読み方として作者の意図したこととは違うのかもしれないが、どうしても、上村松園という画家の仕事と人生をそこに見てしまう。本当の上村松園がどのようであったかは、また別のことなのであろうが、そうはいっても、晩年に描いた「序の舞」にいたる画家としての一生が、最期に大団円を迎える。女性として初の文化勲章を授与されることになる。そして、その死までを書いてある。
以上の二点が、下巻まで読んで感じるところである。
これは小説であり、上村松園の評伝ではない。そう思って読むべき作品であろう。この意味においても、津也の人生の影のような部分にめくばりがある。
「津也が、同性から近寄り難い、親しみ難い、といいわれるているのもこういう辺りが理由のひとつではなかったろうか。」(下 p.305)
必ずしも著者(宮尾登美子)は、主人公の津也の人生を、理想的な生き方ばかりで描いているのではない。このあたりの懐の深さとでもいうべきものが、宮尾登美子作品の魅力であると、強く感じる。
2020年1月8日記
続きである。
やまもも書斎記 2020年2月13日
『序の舞 上』宮尾登美子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/02/13/9213137
上巻につづけて読んだ。上巻について書いたとき、その代表作である「焔」「花がたみ」を見たことについて書いた。下巻まで読んでくると、この二つの作品の制作の背景が語られる。いわゆる上村松園の美人画の系譜からすれば、この二つの作品は異色である。だが、そのなかにあって、きわだっている作品であるともいえる。
下巻まで読んで感じるところは次の二つ。
第一に、これまでも書いてきたように、宮尾登美子作品の底流にあるのは、市井の人びとの情愛である。普通に生きている人間の情感、愛憎といってもよい。
下巻では、特に印象的なのが恋。年下の男性との恋におちる。だが、それはみのることなく、おわってしまう。このあたりの主人公(津也)のこころのうちのゆれうごきが、実にこまやかである。さすがに津也の心情に共感するというところまではいかないが、しかし、そのこころのうちによりそって文章を読んでいくことになる。
この作品でも、老い、病、それから、親子の情、場合によっては確執ともなる……これら、悲喜こもごもの情感が、密度の高い文章でつづってある。
第二に、これはこの作品の読み方として作者の意図したこととは違うのかもしれないが、どうしても、上村松園という画家の仕事と人生をそこに見てしまう。本当の上村松園がどのようであったかは、また別のことなのであろうが、そうはいっても、晩年に描いた「序の舞」にいたる画家としての一生が、最期に大団円を迎える。女性として初の文化勲章を授与されることになる。そして、その死までを書いてある。
以上の二点が、下巻まで読んで感じるところである。
これは小説であり、上村松園の評伝ではない。そう思って読むべき作品であろう。この意味においても、津也の人生の影のような部分にめくばりがある。
「津也が、同性から近寄り難い、親しみ難い、といいわれるているのもこういう辺りが理由のひとつではなかったろうか。」(下 p.305)
必ずしも著者(宮尾登美子)は、主人公の津也の人生を、理想的な生き方ばかりで描いているのではない。このあたりの懐の深さとでもいうべきものが、宮尾登美子作品の魅力であると、強く感じる。
2020年1月8日記
最近のコメント