『教科書名短篇-人間の情景-』中公文庫 ― 2020-03-13
2020-03-13 當山日出夫(とうやまひでお)

中央公論新社(編).『教科書名短篇-人間の情景-』(中公文庫).中央公論新社.2016
http://www.chuko.co.jp/bunko/2016/04/206246.html
ふと目についたので読んでみることにした。これは、中学校の国語教科書に採録された短編小説のアンソロジーである。収録してあるのは次の作品。
無名の人 司馬遼太郎
ある情熱 司馬遼太郎
最後の一句 森鷗外
高瀬舟 森鷗外
鼓くらべ 山本周五郎
内蔵充留守 山本周五郎
形 菊池寛
信念 武田泰淳
ヴェロニカ 遠藤周作
前野良沢 吉村昭
赤帯の話 梅崎春生
風になったお母さん 野坂昭如
このなかで、文学史的に一番有名なのは、「高瀬舟」(森鷗外)であろう。この本で私も久しぶりに読んだことになる。読んでみて、ああなるほどこういう小説であったのかと、改めて得心のいったところがある。そして、この「高瀬舟」は、中学生に読ませていい小説であると強く感じた。
自分とは価値観のことなる人に接したときどうあるべきなのか……一般化すれば、このような問いかけをこの小説は描いている。具体的に、この小説の内容に則していうならば、金銭感覚であり、安楽死の問題ということになる。だが、このようなテーマだけに限ってこの小説を読むことはないかと思う。もっと広く、人間として生きていくための価値観、その多様性という方向から読まれるべきではないだろうか。
これからの社会、多様性の尊重ということがもとめられる。そのときに必要になるのは、想像力である。自分とは異なる価値観をもつ人に対して、どのような想像力でもって接することがもとめられるのか。ここのところを涵養するものとして、「文学」というものがあってよい。
今、日本の国語教育は大きな岐路にたっている。中等教育において、これから、「文学」がどのように教えられることになるのか、一部には危機感を持っている人もいる。
私としては、多様性の尊重という観点からこそ、これからの「文学」の教育はなされる必要があると思っている。この意味において、「高瀬舟」は、これからも、中学生や高校生には読まれ続けて欲しい。
それから、読んで印象に残ったのは、「内蔵充留守」(山本周五郎)である。最後のオチの部分は読みながらなんとなく推測できてしまうのであるが、しかし、これも人が人として世の中で生きていくためには、何が必要なのか、きわめて分かりやすく、そして、面白く描いている。
最後に収録になっている、「風になったお母さん」(野坂昭如)。これは、短い作品だが、思わず読みふけってしまった。『火垂るの墓』につらなる戦争のこと、そのなかでも特に子どもに題材をとった作品である。独特の文体と相まって、確固たる文学の世界を構築している。
見てみると、この本の姉妹編の文庫、『教科書名短篇-少年時代-』も刊行になっている。これも読んでみたいと思う。
2020年3月9日記
http://www.chuko.co.jp/bunko/2016/04/206246.html
ふと目についたので読んでみることにした。これは、中学校の国語教科書に採録された短編小説のアンソロジーである。収録してあるのは次の作品。
無名の人 司馬遼太郎
ある情熱 司馬遼太郎
最後の一句 森鷗外
高瀬舟 森鷗外
鼓くらべ 山本周五郎
内蔵充留守 山本周五郎
形 菊池寛
信念 武田泰淳
ヴェロニカ 遠藤周作
前野良沢 吉村昭
赤帯の話 梅崎春生
風になったお母さん 野坂昭如
このなかで、文学史的に一番有名なのは、「高瀬舟」(森鷗外)であろう。この本で私も久しぶりに読んだことになる。読んでみて、ああなるほどこういう小説であったのかと、改めて得心のいったところがある。そして、この「高瀬舟」は、中学生に読ませていい小説であると強く感じた。
自分とは価値観のことなる人に接したときどうあるべきなのか……一般化すれば、このような問いかけをこの小説は描いている。具体的に、この小説の内容に則していうならば、金銭感覚であり、安楽死の問題ということになる。だが、このようなテーマだけに限ってこの小説を読むことはないかと思う。もっと広く、人間として生きていくための価値観、その多様性という方向から読まれるべきではないだろうか。
これからの社会、多様性の尊重ということがもとめられる。そのときに必要になるのは、想像力である。自分とは異なる価値観をもつ人に対して、どのような想像力でもって接することがもとめられるのか。ここのところを涵養するものとして、「文学」というものがあってよい。
今、日本の国語教育は大きな岐路にたっている。中等教育において、これから、「文学」がどのように教えられることになるのか、一部には危機感を持っている人もいる。
私としては、多様性の尊重という観点からこそ、これからの「文学」の教育はなされる必要があると思っている。この意味において、「高瀬舟」は、これからも、中学生や高校生には読まれ続けて欲しい。
それから、読んで印象に残ったのは、「内蔵充留守」(山本周五郎)である。最後のオチの部分は読みながらなんとなく推測できてしまうのであるが、しかし、これも人が人として世の中で生きていくためには、何が必要なのか、きわめて分かりやすく、そして、面白く描いている。
最後に収録になっている、「風になったお母さん」(野坂昭如)。これは、短い作品だが、思わず読みふけってしまった。『火垂るの墓』につらなる戦争のこと、そのなかでも特に子どもに題材をとった作品である。独特の文体と相まって、確固たる文学の世界を構築している。
見てみると、この本の姉妹編の文庫、『教科書名短篇-少年時代-』も刊行になっている。これも読んでみたいと思う。
2020年3月9日記
追記 2020-03-14
この続きは、
やまもも書斎記 2020年3月14日
『教科書名短篇-少年時代-』中公文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/03/14/9223989
この続きは、
やまもも書斎記 2020年3月14日
『教科書名短篇-少年時代-』中公文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/03/14/9223989
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