『岩伍覚え書』宮尾登美子 ― 2020-03-21
2020-03-21 當山日出夫(とうやまひでお)
宮尾登美子.『岩伍覚え書』(集英社文庫).集英社.1979(2016.改版 筑摩書房.1977)
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-745415-4
続きである。
やまもも書斎記 2020年2月20日
『錦』宮尾登美子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/02/20/9215798
これは短篇集である。次の作品を収録してある。
三日月次郎一件について
すぼ抜きについて
満州往来について
博徒あしらいについて
これは再読になる。昔の文庫本で読んだだろうか。
作品は、岩伍の語りでなりたっている。これまで宮尾登美子の作品を読んできたなかでは、『櫂』における、喜和の夫である。土佐の高知で、芸妓娼妓紹介業をいとなんでいる。その岩伍が、自分自身の稼業における様々なエピソードを織り交ぜて語っている。
この本を読んで思うことは、次の二点。
第一に、特に『櫂』などを読んでいるから思うことであるが、作者(宮尾登美子)は、このような作品を書くことができたからこそ、作家としての自分のあり方を確立することができたのであろう、ということが理解される。最も忌み嫌っていたはずの、父の職業……芸妓娼妓紹介業……を、その当事者の視点で、その内側から描いている。この作品を書くためには、自らの出生から生いたちについて、さらに引き離して見る視点をもたなければならない。このことに、この作品は見事に成功している。おそらく、この作品を書くことによって、作者(宮尾登美子)は、作家としての飛躍を遂げたといえるだろう。
第二に、これは作者(宮尾登美子)が意図したことではなかったかもしれないのだが、大正から昭和(戦前)にかけての、芸妓娼妓紹介業という職業、そして、それに必然的に関係してくる、そのような境遇に身を落とさざるをえない女性たちや家族、さらには妓楼の人びと、また、そこに群がる多くの人びと……その中には、博徒というべき人間もふくまれる……この様々な人間像を、その風俗とともに、活写していることである。
かつて、日本には、このような時代があった……今ではもう忘れられてしまっている……このことを、強く思い出させてくれる。そして、これは、今の日本において忘れてはいけない過去の歴然とした出来事である。
以上の二点が、この作品を読んで感じることなどである。
それにしても、著者(宮尾登美子)は、よほどの覚悟を決めてこの作品を書いたと感じるところがある。今、これほどの作品を書ける度胸のある小説家がどれほどいるだろうか。
2020年3月14日記
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-745415-4
続きである。
やまもも書斎記 2020年2月20日
『錦』宮尾登美子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/02/20/9215798
これは短篇集である。次の作品を収録してある。
三日月次郎一件について
すぼ抜きについて
満州往来について
博徒あしらいについて
これは再読になる。昔の文庫本で読んだだろうか。
作品は、岩伍の語りでなりたっている。これまで宮尾登美子の作品を読んできたなかでは、『櫂』における、喜和の夫である。土佐の高知で、芸妓娼妓紹介業をいとなんでいる。その岩伍が、自分自身の稼業における様々なエピソードを織り交ぜて語っている。
この本を読んで思うことは、次の二点。
第一に、特に『櫂』などを読んでいるから思うことであるが、作者(宮尾登美子)は、このような作品を書くことができたからこそ、作家としての自分のあり方を確立することができたのであろう、ということが理解される。最も忌み嫌っていたはずの、父の職業……芸妓娼妓紹介業……を、その当事者の視点で、その内側から描いている。この作品を書くためには、自らの出生から生いたちについて、さらに引き離して見る視点をもたなければならない。このことに、この作品は見事に成功している。おそらく、この作品を書くことによって、作者(宮尾登美子)は、作家としての飛躍を遂げたといえるだろう。
第二に、これは作者(宮尾登美子)が意図したことではなかったかもしれないのだが、大正から昭和(戦前)にかけての、芸妓娼妓紹介業という職業、そして、それに必然的に関係してくる、そのような境遇に身を落とさざるをえない女性たちや家族、さらには妓楼の人びと、また、そこに群がる多くの人びと……その中には、博徒というべき人間もふくまれる……この様々な人間像を、その風俗とともに、活写していることである。
かつて、日本には、このような時代があった……今ではもう忘れられてしまっている……このことを、強く思い出させてくれる。そして、これは、今の日本において忘れてはいけない過去の歴然とした出来事である。
以上の二点が、この作品を読んで感じることなどである。
それにしても、著者(宮尾登美子)は、よほどの覚悟を決めてこの作品を書いたと感じるところがある。今、これほどの作品を書ける度胸のある小説家がどれほどいるだろうか。
2020年3月14日記
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