『源氏物語』岩波文庫(二)2020-03-30

2020-03-30 當山日出夫(とうやまひでお)

源氏物語(2)

柳井滋(他)(校注).『源氏物語(二)』(岩波文庫).岩波書店.2017
https://www.iwanami.co.jp/book/b325112.html

続きである。
やまもも書斎記
『源氏物語』岩波文庫(一) 2020年3月16日
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/03/16/9224764

岩波文庫の題二冊目では、「紅葉賀」から「明石」までをおさめる。

『源氏物語』を読むと、その世界にひたりきって読むことになる。岩波文庫の第一冊を読んで、つづけて第二冊を読んだ。

岩波文庫の第二冊を読んで思うところを書けば、次の二点ぐらいになるだろうか。

第一には、紫の上のことである。この第二冊まで読んで、まさに、この『源氏物語』が紫の上の物語であることが理解されることになる。幼い紫の上を自分のところ(二条の院)にひきとって、自分の好みの女にしたてあげる。このあたりの描写を読んで行くと、平安時代における色好みが理想化されている箇所なのだろうとは思うが、しかし、現代の価値観でみるならば、ほとんど犯罪といっていいだろう。が、そのような光源氏と紫の上の関係に、読みながらおもわず感情移入して読んでしまうことになる。

第二には、明石の君である。須磨に移った光源氏は、さらに明石に赴くことになる。そこで、明石の君という女性を知る。明石の君は音楽に堪能である。それが光源氏のこころをひく要因にもなっている。後のストーリーの展開からするならば、ここで明石の君という女性が登場することは、光源氏の栄華のポイントになる。

が、それよりも、これを明石の君の立場で考えてみるならば、地方の受領層の娘で、そのまま田舎で埋もれてしまうかもしれなかったもしれない、それが、光源氏のものとなって、京の都での生活をおくることになる。これは、これからの巻で書かれることになることである。

宇治十帖の浮舟もそうだし、また、玉鬘もそうであるが、地方の受領層の娘が、運命のみちびきによって、都に出て、幸福を得る(浮舟の場合、必ずしもそうではないかもしれないが)。このようなストーリーは、おそらく、平安朝の『源氏物語』の読者、その多くは、女房であり、階層としては、まさに同じ受領層に属する女性たちのこころをひくものであであったのだろうと、推測する。

以上の二点ぐらいが、岩波文庫の第二冊を読んで思うことなどである。

それから、国語学、日本語学の観点から、今回気付いたこととしては、「文字」ということで、「ことば」の意味で使ってあるところがある。これは、『源氏物語』を読むような人びとにとっては、まさに物語は文字で書かれたものであったことを意味するのだと思う。

また、第二冊の注釈も面白い。最新の知見、ということでもないかもしれないが、名義抄などの古辞書などがつかってあったり、『今昔物語集』への言及があったりして、注釈を読んでも、これは面白いところがある。『源氏物語』と『今昔物語集』は、近接した関係にあるのだろうと思ったりもする。

さらに書いてみるならば、新しい岩波文庫のテクストは、新日本古典文学大系を基本にしている。つまり、大島本に忠実である。さすがに岩波文庫では、仮名遣いが歴史的仮名遣いになってはいる。が、その本文表記は、かなり忠実に大島本によっている。これを見ると、大島本というものが、決して、『源氏物語』全巻を通じて一様ではないことが、指摘できようか。

岩波文庫の第二冊の解説は、その本文について書いてある。『源氏物語』の本文として、大島本が最善本であるかどうかは、いろいろ議論のあるところではあろう。が、とりあえず、その議論があるとして、大島本に忠実であろうという態度も、学問的には一つの立場であろう。

2020年2月3日記

追記 2020-04-06
このつづきは、
やまもも書斎記 2020年4月6日
『源氏物語』岩波文庫(三)
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/04/06/9232136