『猫を棄てる』村上春樹2020-04-30

2020-04-30 當山日出夫(とうやまひでお)

猫を棄てる

村上春樹.『猫を棄てる-父親について語るとき-』.文藝春秋.2020
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163911939

村上春樹が書いた作品のなかでは、異色の一冊と言っていいだろう。主に、父親のこと、特に、戦争とのかかわりについて書かれている。読んで思うところは、次の二点ぐらいになるだろうか。

第一には、非常に重たい内容の本だということがある。

戦争……日中戦争から太平洋戦争にかけて……において、自分の父親が、軍隊でどのような行動をしていたのか、史実と、いくぶんの推量をまぜて、淡々と語っている。だが、そこで語られる内容は、日本軍の残虐さであり、悲惨な戦争の末路でもある。

村上春樹は、あまり歴史ということを書いていない。また、特に政治的ということもない。読んだ印象としては、どちらかといえば、意図的に、政治的であることを避けているようにも思える。

しかし、この文章では、歴史というもの、また、それをとりまく政治の大きな流れというものを、深く洞察していると感じさせる。

第二には、それにもかかわらず読後感としては、清涼な感じがすることである。

確かに重たい内容の本なのだが、それが、幼いときに猫を海辺に棄てに行った話しを発端として語られるせいもあるのかもしれない。読み終わって、そんなに重苦しい感じが残らない。

これは、村上春樹の文章の巧みさなのであろう。戦争というもの、歴史というものを語りながらも、その後には、一陣の風が軽やかに吹き抜けた後のような印象が残る。

以上の二点が、この本を読んで感じたところなどである。

おそらく、村上春樹の文学を理解するためには、重要な一冊であるにちがいない。歴史の流れのなかで、自らの生いたちをどのように感じているのか、特に、その父親のことをどう思っているのか、戦争について何を思うのか……その小説やエッセイでは、あまり描かれることのない部分を、きわめて率直な文章でつづってある。

2020年4月27日記

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