『ヰタ・セクスアリス』森鷗外2020-05-28

2020-05-28 當山日出夫(とうやまひでお)

ヰタ・セクスアリス

森鷗外.『ヰタ・セクスアリス』(新潮文庫).新潮社.1949年(2011.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/book/102003/

この作品も、若いころに読んだかと思うのだが、すっかり忘れてしまっていた。新しい新潮文庫で再度読んでみることにした。

性についての自伝的作品であるということは、覚えていたのだが、再読してみて感じるところは、むしろ、小説的な面白さである。

明治四二年(一九〇九)の成立(解説、高橋義孝)。これは、鷗外が本格的に文学の世界で活躍をはじめた時期の作品ということになる。そのこともあるのだろう、文章の端正さに魅了されるところがある。描いているのは、主に性についての子どものころから青年期までの回想である。それが、実に整った文章で描かれている。微塵も、性にまつわる暗さとでもいうようなものは感じられない。

そして、読んで感じるところは、読んでいって小説として面白く書けているということである。性のことをあつかいながら、これまで小説的な物語の面白さで読者をひきつける作品は、そうあるものではないだろう。これを読むと、さすが鷗外という気になる。

今、新潮文庫で読める鷗外の作品というと、この『ヰタ・セクスアリス』の他には、これまで読んできた『青年』『阿部一族・舞姫』『山椒大夫・高瀬舟』ということになる。漱石ほど大量には、今の文庫本で読めるという状況ではないようである。(古本でさがせば、筑摩版の文庫の全集がある。また、『渋江抽斎』の岩波文庫もある。)漱石は、その小説のほとんどが、文庫版で読むことができる。

『ヰタ・セクスアリス』は、短い作品であるが、森鷗外が文豪と呼ばれるのが、よく理解できる作品である。

2020年5月27日記