『一人称単数』村上春樹2020-07-24

2020-07-24 當山日出夫(とうやまひでお)

一人称単数

村上春樹.『一人称単数』.文藝春秋.2020
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784163912394

村上春樹の短編小説集である。

去年からふとおもいたって、村上春樹の作品(長編、短篇、エッセイ、翻訳など)読んできている。新しい短篇集が出たのでこれは買って読んでみることにした。

村上春樹という作家は、短篇と長編で描く世界の雰囲気が大きく違う。長編は、よくもわるくも一つのパターンのようなものがある……異界の物語である。しかし、短篇作品は、非常に詩的な情感をただよわせた文学世界をそこに構築してみせる。

この『一人称単数』を読んで感じるのは、あわい詩情のようなものである。

私が読んで印象に残る作品としては、「石のまくらに」、それから、「品川猿の告白」といったあたりであろうか。特に「品川猿の告白」がいい。

だが、ちょっと余計なことが書きすぎてあるかなという感じがしないでもない。前半の猿の話しだけで十分なのではないだろうか。終わりのエピソードに出てくる女性のことは無いほうがいいように思って読んだ。

それにしても、この作品は、不思議な印象の作品である。羊男ではなく、猿、なのであるが……読んでいて、思わずその作品世界のなかにひたって読んでしまうことになる。こういう作品は、村上春樹ならではのものだろう。

それから、この作品集には、いくつかのラブストーリーとでもいうべき作品がおさめられている。これらが、非常にいいと感じる。現代のふとした男女の……どちらかといえば若い……邂逅と分かれ、それが印象的につづられている。これらの作品に、重苦しさのようなものはない。どれも、軽い感じがする。これは、いい意味でそう感じるのである。このような軽い感じの、ラブストーリーを書けるのは、やはり村上春樹の世界といっていいのだろう。

2020年7月21日記

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