『ケイトが恐れるすべて』ピーター・スワンソン2020-09-08

2020-09-08 當山日出夫(とうやまひでお)

ケイトが恐れるすべて

ピーター・スワンソン.務台夏子(訳).『ケイトが恐れるすべて』(創元推理文庫).東京創元社.2019

この作者の作品としては、『そしてミランダを殺す』を読んでいる。

やまもも書斎記 2018年12月15日
『そしてミランダを殺す』ピーター・スワンソン
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2018/12/15/9012039

これが良かったので、買っておいた。積んだままになっていた本なのだが、前期授業(オンライン)が終わって、ほっと一息という状態なので、取り出してきて読んでおくことにした。

結論からいえば、『そしてミランダを殺す』の方が出来がいい。面白い。しかし、この作品も、また、読んで楽しめる作品にしあがっている。

状況設定もまた興味深い。ロンドンに住んでいるケイトが、又従兄弟のコービンからさそわれて、そのボストンにある住居で暮らすことになる。コービンが、仕事で英国に来ている間、住まいを交替しようというのである。そして、ケイトは、ボストンにやってくる。そこで、おこる殺人事件。隣人の女性が殺されてしまう。

ケイトには、ある不幸な過去がある。その精神的障碍を残して生きている。物語の進行とともに、視点がかわり、コービンの過去が語られる。その過去のできごとは、はたして、ボストンで起こった殺人事件とかかわることになるのか……というあたりをめぐって、いくつかの語りの視点を切り替えながら、物語はすすむ。

純然たる謎解きという作品ではないのだが、はたして、ボストンの殺人事件の犯人は誰なのか、最後まで、読者をひきつけていく語り口は見事である。

ただ、強いて書いてみるならば……この作品は、ある種の猟奇的犯罪をあつかっているのだが、その犯罪の背後にある心理描写に、今一つ納得できないところがある。このあたり、ちょっと読者の共感を得るということには乏しいような気がしてならない。サスペンスというのは、むしろ犯人の側の心理……それがどれほど異常なものであっても……にどれだけ共感できるか、というところがポイントになるのだと思っている。

夏休みの一日に読んでみるのには、損のない本だと思う。

2020年9月5日記