『だまされた女/すげかえられた首』トーマス・マン/岸美光(訳)2020-10-08

2020-10-08 當山日出夫(とうやまひでお)

だまされた女/すげかえられた首

トーマス・マン.岸美光(訳).『だまされた女/すげかえられた首』(光文社古典新訳文庫).光文社.2009
https://www.kotensinyaku.jp/books/book74/

『文学こそ最高の教養である』に出ていた本を順に読んでいる。トーマス・マンの続きである。

解説によると、トーマス・マンのエロス的な作品として、『ヴェネツィアに死す』と一緒に刊行する予定だったらしい。そういわれてみると、たしかに、エロスにみちた作品である。

トーマス・マンの作品は、今では、もうあまり読まれないのかもしれない。私が、トーマス・マンの名前を知っているのは、若いときに読んだ北杜夫を通じてであった。若いときに『魔の山』を手にとったこともある。なんとも難解な作家であるというイメージをもっていた。『トニオ・クレーゲル』は何度か読みかえしたものである。近年になって、『ブッデンブローク家の人びと』を読んでみて、少しイメージが変わった。謹厳実直な作品でありながら、どことなくユーモアを感じさせる。

これらの作品、『ヴェネツィアに死す』『だまされた女/すげかえられた首』を読んでみて感じるところは、エロスというものを描きながら、そこになんとなくユーモアのようなものがあることである。ユーモアを描こうとした作品ではないのであろうが、登場人物が大真面目で真剣になればなるほど、それをはたから見ていて、なにがしか滑稽なものを感じずにはいられない。

ところで、興味深いのは『すげかえられた首』である。なんとも荒唐無稽な話しといってしまえばそれまでかもしれないが、近年の、生命科学、医学の進歩によって、ひょっとすると、この小説で描いたような問題が、現実のものとなり得るのかもしれない、いや、すでに現実の課題であるといっても過言ではない、そんな気がしてならない。

他のトーマス・マンの作品も読んでおきたい、あるいは、さらに再読してみたいと思うが、とりあえずは、『文学こそ最高の教養である』の本を順番に読んでいくことにする。

2020年9月20日記