『「グレート・ギャツビー」を追え』ジョン・グリシャム/村上春樹(訳)2020-10-22

2020-10-22 當山日出夫(とうやまひでお)

「グレート・ギャツビー」を追え

ジョン・グリシャム.村上春樹(訳).『「グレート・ギャツビー」を追え』.中央公論新社.2020
https://www.chuko.co.jp/tanko/2020/10/005341.html

ジョン・グリシャムの作品のいくつかは読んだことがある。『グレート・ギャツビー』も読んでいる。村上春樹は、その小説やエッセイなどはほとんど読んだかと思う。翻訳がいくつか残っている。これも順次読んでいこうと思う。

このようなときに、この本がでた。これは、買って読むしかないだろうと思った。

プリンストン大学での、「グレート・ギャツビー」の自筆原稿の盗難事件からスタートする。そして、舞台は一転して、地方のある島と書店のことになる。主な登場人物は、作家のマーサー。小説を刊行してみたものの次に続く作品が書けなくてスランプにおちいっている。そんなマーサーと知り合うことになるのが、書店を経営するブルース。チェーン店ではない、無論オンラインではない、独立系の書店経営者として成功している。あつかっている本は多岐にわたるが、新刊ばかりではなく、古書、初版本などもあつかっている。これはかなり大きなビジネスとして展開している。そのブルースが、あるいは、盗難にあった「グレート・ギャツビー」の原稿を持っているかもしれない。ある組織から依頼をうけた、マーサーは、その探索にあたることなるのだが。まあ、このようなお膳立てでストーリーが展開する。

ジョン・グリシャムの小説であるが、弁護士とか検事とか出ては来ない。登場するのは、作家と書店経営者。アメリカにおける文芸ビジネス(という用語が適切であるかどうかとは思うが、ともあれ、ビジネスとしての文芸書の販売)の内幕が、かなり詳細に語られる。これは、かなり興味深かった。

また、初版本コレクションとそのビジネスの世界についても詳しい。

さて、ブルースは、本当に「グレート・ギャツビー」の原稿を所有しているのだろうか、探査をすすめるマーサーの視点から、基本的に小説は進行する。

最後のところで、真相があきらかになるのだが、ナルホドという落とし所になっている。ミステリとして読んでも、やはり一級品であると思う。(あるいは、今年のミステリベストに入るかもしれない。)

ところで、村上春樹の翻訳作品を読んできていたのだが、しばらく中断してしまっている。これも、のこる作品を読んでしまっておきたい。村上春樹が訳しているからこそ、読んでおきたい本というものがある。

2020年10月20日記