『絶望』ナボコフ/貝澤哉(訳)2020-10-23

2020-10-23 當山日出夫(とうやまひでお)

絶望

ナボコフ.貝澤哉(訳).『絶望』(光文社古典新訳文庫).光文社.2013
https://www.kotensinyaku.jp/books/book177/

『文学こそ最高の教養である』の本。ナボコフの初期のロシア語作品である。

先に『カメラ・オブスクーラ』を読んでいるので、その目で読むせいもあるのかもしれないが、「小説」という虚構の世界をことばで語ることに、自覚的、あるいは、その世界の中に遊んでいるという印象をうける。「小説」における虚構とは何であるかを問いかける作品とでもいうことができるだろうか。

場所はドイツ。主人公の男性が、ある日、ふとしたことから、自分にそっくりな男(浮浪者)を見つける。そこから、思いつく完全犯罪。その顛末が、主人公の男性の視点が描かれる。

ここまで常識的なことなのだが、その語り口の、多様さ、あるいは、饒舌さ、あるいは、たくらみ、といったものに翻弄されながら読むことになる。そして、最後には、意外な結論が待ち受けている。

この小説のストーリーについて、解説では、叙述トリック(ミステリ用語としての)と言っているが、どうかなという気がしないではない。私の理解するところでは、真相は闇の中、それをめぐる語り口の巧みさの物語、とでも感じてしまう。

ともあれ、ナボコフという作家は、「小説」という虚構の世界を、ことばによって構築していくことに、貪欲な工夫をめぐらしている。このような作品は、ただ、ストーリーを追うのではなく、その語り口を味読してこそ意味がある。

見てみると、ナボコフの作品は他にもいくつか文庫本で読めるものがあるようだ。『文学こそ最高の教養である』の本を読み終わったら、再度たちかえってナボコフを読んでおきたいと思う。

2020年10月11日記