『晩年』太宰治/新潮文庫2020-11-05

2020-11-05 當山日出夫(とうやまひでお)

晩年

太宰治.『晩年』(新潮文庫).新潮社.1947(2005.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/book/100601/

ここしばらくは、秋になるとまとまった本を読む。一昨年は、『失われた時を求めて』を、岩波文庫と集英社文庫で、一四冊読んだ。昨年は、夏目漱石の新潮文庫で出ている本を全部読んだ。さて、今年はどうしようかと思って、太宰治を読むことにした。

太宰治は、これまで折りにふれていくつかの作品を読んだことはある。たしか、その作品のいくつかは、学校の教科書にも載っていたように覚えている。中学、高校生のころから、読んできているといってよいだろう。しかし、まとまって、集中的に読んでみるということはこれまでしてきていない。(このような作家としては、三島由紀夫とか、川端康成とか、谷崎潤一郎とかがある。)

本は買って積んであった。今年の春頃、COVID-19の影響で、外出することがなくなってしまったので、家で読もうと思ってまとめて買った。が、なんとなく読みそびれて積んだままになってしまっていた。

積んであった本のなかから適当に一冊を手にしてみた。『晩年』である。これは、たまたまのことになるが、この作品が、太宰治の最初の小説集ということになる。

読んで見て思うことは……これは、解説などでも触れられていることだが……その後の太宰治の文学のすべてが凝縮されてある、という印象をもつ。そのうち二点ばかり書いてみる。

第一には、「思い出」。

幼少期のことをつづった作品である。『晩年』のなかでも、ひときわ印象が深い。

日本の近代文学の作品のなかには、その作家の幼少期のことを回想して書いたという体裁の作品がいくつかある。これも、それらのうちの一つということになるのだろう。そして、傑作といっていいだろう。あわい叙情性と、それを語る穏やかな文体がいい。

第二には、「葉」。

最初に収録されている、いくつかの文章の断片をまとめたものであるが、そのなかに、女性の立場で語った文章がある。これがいい。太宰は会話文体、特に女性の語りがたくみである。その後の太宰の作家としての仕事を予見させるものである。

以上の二点ほどが、特に印象に残ることなどである。

多様な作品が収録されているが、どれを読んでも、後の太宰の文学へと発展していく何かを感じさせるものが多い。

太宰治の作品の主なものは、現在、新潮文庫でほぼ読めるようだ。今年の秋は、太宰治をまとめて読んでみることにしようかと思う。なかには、以前に読んで再読になる作品もある。「全集」を見るのもいいかと思うが、もう楽しみの読書である。新潮文庫で今でも売っている本に限定して読んでみるということにしたいと思う。

2020年10月30日記

追記 2020-11-07
この続きは、
やまもも書斎記 2020年11月7日
『二十世紀旗手』太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/11/07/9313948