『二十世紀旗手』太宰治/新潮文庫 ― 2020-11-07
2020-11-07 當山日出夫(とうやまひでお)

太宰治の昭和一一年から一二年にかけての作品を収めてある。この時期は、太宰にとっては、薬物中毒、また、心中未遂と、波乱に満ちた時期であった。また、時代の世相としては、日本が、いよいよ本格的に日中戦争にかかわろうという時代になる。しかし、そのような時代的背景、さらには、作者の伝記的な事情をわかって読むとしても、不思議な魅力に満ちた作品であると感じる。
昭和戦前の文学、特に小説というものが、これほどまでに、多様な表現でありえたのかというのが、まず思うところである。様々な小説の方法論的こころみがなされている。
今の観点から読んでみて、ここに収められた作品はどれも面白い。特に、独自の文体、その多様な語り口がいい。読みながら、思わずその文章を読みふけっていることに気づく。これほど文体の魅力をもつ作家が、現代にどれほどいるだろうか。
太宰治が死んでから、七〇年以上になる。もう昔の作家と思っていたところもあるのだが、今こうして読みかえしてみると、その文章の新鮮さにおどろく。たしかに、過剰な自意識、また、小説を書く自分自身を見るメタな視点というものを感じるところはある。太宰が死んで数十年が経過し、また、読んでいる私自身も、もう若くはない。若いときに読んだ太宰治の印象からはなれて、距離を持って読むことができるといっていいだろう。その余裕を持って読むからこそ、ようやく太宰治の文学というものを、楽しむことができる。
続けて太宰治の新潮文庫版を読んでいきたいと思う。
2020年11月2日記
追記 2020-11-12
この続きは、
やまもも書斎記 2020年11月12日
『新ハムレット』太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/11/12/9315672
この続きは、
やまもも書斎記 2020年11月12日
『新ハムレット』太宰治/新潮文庫
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