『ろまん燈籠』太宰治/新潮文庫2020-11-26

2020-11-26 當山日出夫(とうやまひでお)

ろまん燈籠

太宰治.『ろまん燈籠』(新潮文庫).新潮社.1983(2009.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/book/100617/

続きである。
やまもも書斎記 2020年11月23日
『新樹の言葉』太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/11/23/9319444

文庫本の編集としては、『新樹の言葉』につづく戦争中の作品集という位置づけになる。昭和一六年から、昭和一九年にかけて発表された作品である。

戦争中に太宰治は、こんな文学を書いていたのか……という思いが残る。そして、よくぞ、戦時下にあって、これだけの質の文章を残したものかという気持ちになる。どれを読んでも面白い。やはり、その独特の語り口の妙である。これも、ほとんど一気に読んでしまった。

なかで印象に残るのは、「十二月八日」という作品。昭和一六年一二月八日のことを書いた作品である。この作品で、太宰は、得意とするところの、女性の一人称語りで語っている。そのなかに、おそらく自分自身であろう男性のことが描かれる。ある意味で、かなり屈折した視点から、昭和一六年の太平洋戦争開戦のときのことを描いたことになる。

おそらく、太平洋戦争、あるいは、それ以前からの日中戦争を描いた文学を選ぶとなると、この作品は、選ばれていいのではないだろうか。その日の報道に接したとき、気分の高揚、そして、未来への希望、と同時に、感じざるをえないなにがしかの不安というもの……これらの感情を、見事に短い作品のなかに凝縮して描いている。

ところで、この文庫本のタイトルにとってある「ろまん燈籠」であるが、実にタイトルの付け方が巧みであると感じる。一度目にしたら忘れない。すぐれた文学者は、その作品のタイトルのつけたもうまい、ということである。

2020年11月19日記

追記 2020-11-27
この続きは、
やまもも書斎記 2020年11月27日
『正義と微笑』太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/11/27/9320841