『パンドラの匣』太宰治/新潮文庫2020-11-28

2020-11-28 當山日出夫(とうやまひでお)

パンドラの匣

太宰治.『パンドラの匣』(新潮文庫).新潮社.1973(2009.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/book/100611/

続きである。
やまもも書斎記 2020年11月27日
『正義と微笑』太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/11/27/9320841

新潮文庫版では、「正義と微笑」と同じ冊に収録されている。が、書かれた時期がいくぶん異なる。「正義と微笑」は、戦時中の書き下ろし。一方、「パンドラの匣」は戦後になってから(昭和二〇年から二一年)、新聞連載の作品である。ただ、どちらも、太宰にしては珍しくというべきか、若さの持つどちらかといえばその明るい側面を描いた中編ということで、一緒になっているようだ。

「パンドラの匣」は、どう評価すればいいのだろうか、いろいろ考える。これは書簡体小説になっているが、実質的に一人称語りの作品である。その語り口のうまさは、終戦ということを経ても変わっていないと感じさせる。この意味では、やはり太宰の作品である。

この作品は、新しい日本のこれからを描こうとした作品として読めなくもない。しかし、この観点で読むと、どうにも面白くない。いや、面白くないというよりも、終戦にあたって太宰が何を考えていたのか、読みとりがたいのである。

そして、文学史のこととしては、太宰は、その後若さのもつ明るさのようなものを描くことはなかったことになる。「正義と微笑」「パンドラの匣」と読んでみて、やはりこれは太宰の作品だと感じるところがある。確かに若さのもつ明るさのようなものを描こうとしているのだが、しかし、時として、太宰ならではの過剰な自意識というものを感じる。そして、ふと人生の暗さというようなものも感じてしまう。

戦中から戦後への文学史のなかで、これらの作品は、いろいろと考えるべき論点をふくんでいるかと思う。

2020年11月21日記

追記 2020-11-30
この続きは、
やまもも書斎記 2020年11月30日
『ヴィヨンの妻」太宰治/新潮文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/11/30/9321870