『『細雪』とその時代』川本三郎2020-12-21

2020-12-21 當山日出夫(とうやまひでお)

『細雪』とその時代

川本三郎.『『細雪』とその時代』.中央公論新社.2020
https://www.chuko.co.jp/tanko/2020/12/005350.html

この本の刊行は今年(二〇二〇)であるが、もとになっているのは「中央公論」の連載(二〇〇六から二〇〇七)、それに加筆したものである。

『細雪』については、近年になって読みなおしている。

やまもも書斎記 2017年2月1日
『細雪』谷崎潤一郎(その一)
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/02/01/8346499

『荷風と東京』『林芙美子の昭和』『白秋望景』と、川本三郎の本は読んできている。このうち、『白秋望景』については、書いたことがある。

やまもも書斎記 2016年11月27日
川本三郎『白秋望景』
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2016/11/27/8261192

これら一連の仕事の続きに位置するものとしていいだろう。ただ、雑誌連載から単行本刊行までに時間がかかったのは、著者がなじみのない京阪神の地域のことを書いているので、いまひとつ自身がなかったせいとある。

読んでみて思うことは……なるほど、『細雪』は、このような読み方ができるのか、という新たな発見であり、同時に、その時代……戦前、戦中の特に阪神間の生活のいろいろな様子……のことが、丁寧に説明してあるのでありがたい。

『細雪』は、読めば分かる小説にしあがってはいるが、なかなか内容として複雑なところがありそうだ。一般的には、三女の雪子の縁談を軸に進行する物語として読むことになるのだろうが、著者は、それよりもむしろ四女の妙子に、新しい時代の女の生き方を見出している。自立した女性であり、昭和戦前の阪神間におけるモダニズムとともに生きた女性を描いているとある。

この本、特に『細雪』にしぼって話しを進めている。谷崎潤一郎論としては、いささか物足りない感じもしないではない。が、『細雪』の物語の世界を丹念に読み解いていく手法は、それまでの仕事をふまえて、川本三郎ならではものである。小説とその作者の向こうがわに、「時代」と「社会」を見ている。

『細雪』は、喪失と哀惜の物語である。そして、同時にそのなかには、滅びゆく船場の旧家の価値観というものが刻印されている。時として、それは、きわめて残酷なことばとなって表現されることもある。それを、著者(川本三郎)は、『細雪』によりそって、そのような価値観の背景にある、昭和戦前の阪神間の中流の生活を分析していく。

これを読んで、また『細雪』を読みかえしてみたくなった。谷崎潤一郎は、主な作品は若いときに手にしている。が、これも、主な作品を読んだということにとどまっている。『細雪』をふくめて、また現在入手可能な文庫本の範囲で読んでみておこうかと思う。「全集」が出ていることは承知している。が、残念ながら、「全集」は買っていない。今から、「全集」に手を出そうという気もしない。気楽な老後の読書である。文庫本に限るということで、谷崎潤一郎を読んでおくことにしようかと思う。

2020年12月20日記

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