『プルーストへの扉』ファニー・ピション/高遠弘美(訳)2021-02-04

2021-02-04 當山日出夫(とうやまひでお)

プルーストへの扉

ファニー・ピション.高遠弘美(訳).『プルーストへの扉』.白水社.2021
https://www.hakusuisha.co.jp/book/b553080.html

高遠弘美訳の『失われた時を求めて』は、光文社古典新訳文庫の既刊分については、昨年に読んだ。その高遠弘美が訳した本ということで手にしてみた。

訳者あとがきによれば、どうしてもこの本は自分で訳しておきたかったとのことである。

この本は、次の三部からなる。

第一部 マルセル・プルーストとはどういう人間だったのでしょうか

第二部 なぜプルーストを読むのでしょうか

第三部 そう、プルーストは読めない作家ではありません

読んでいって、第一部、第二部のあたりは、なるほどとは思うものの、そう斬新なプルースト論ということでもないように読める。第一部は、簡略なプルーストの評伝。第二部は、『失われた時を求めて』の概説。まあ、だいたいこんな印象である。

この本の眼目は、第三部にあるのだろう。プルーストの文章……それは、とても息の長いものであるが……の、分析になっている。ここを読んで、なるほど、このところが、この本について、訳者が注目したところかと思った。この部分は、すぐれた文学の文章論になっている。

さて、次に期待したいのは、高遠弘美訳の『失われた時を求めて』の翻訳のつづきである。たぶん、全訳の見通しがたっているからこそ、ちょっと寄り道という感じで、この本を訳してみることになったのではないだろうか。ともあれ、光文社古典新訳文庫版での『失われた時を求めて』の完結に期待しておきたい。

2021年2月3日記