『和歌史』渡辺泰明2021-02-05

2021-02-05 當山日出夫(とうやまひでお)

和歌史

渡辺泰明.『和歌史-なぜ千年を超えて続いたか-』(角川選書).KADOKAWA.2020
https://www.kadokawa.co.jp/product/321803000328/

大学は、文学部の国文科というところで学んだのだが、どうも短詩型文学……和歌とか俳句とか……が苦手である。ひととおり、勉強したつもりではいるが、この方面からとおいところを専門にすることになってしまった。

だが、日本文学を論じるときに、和歌というのが重要な位置をしめる、ということはきちんと認識しているつもりでいる。その和歌について、古く万葉集から、近世の和歌にいたるまでを、概観した内容になっている。

基本的に作者別になっている。
額田王
柿本人麻呂
山上憶良
大伴家持
在原業平
紀貫之
曾禰好忠
源氏物語の和歌
和泉式部
源俊頼
西行
藤原俊成・定家
京極為兼と前期京極派
頓阿
正徹
三条西実隆
細川幽斎
後水尾院
香川景樹

いずれも、日本の和歌史を論ずるうえでは、欠かすことのできない歌人ばかりである。これらを時代順にとりあげて、代表作をしめし論じてある。和歌史の研究書という面もあるが、全体としては、日本の和歌についての、総合的な概論といったところだろうか。

この年になって……とうに還暦をすぎた高齢者である……このような本を読むと、ある意味で感慨深い。もし、若いときに、このような本があって読んでいたら、どうだったろうかと思う。国語学の分野で、文字や表記といった方面のことではなく、和歌を勉強しようと思ったかもしれない。

それにしても、今の若いひとはめぐまれていると思う。新編国歌大観はデジタル版がある。また、国語研のコーパスもある。さらに、新日本古典文学大系で、万葉集から八代集、それに、その後の主な和歌については、注釈つきで読むことができる。それから、和歌文学大系もある。和歌の勉強をしようと思ったとき、すぐれたテクストと注釈、それにデジタルのツールが、容易に手にすることができるようになっている。

今更、和歌の勉強をしなおそうとは思わないのだが、これぐらいの本なら買って読もうかという気持ちは残っている。また、近世までの和歌と、近代になってから短歌については、これはこれとして、いろいろと興味深いことだとも思う。

ただ、この本の特徴といっていいと思うことは、古代から近世にかけての和歌の歴史を、コンテンポラリーな文学として読む視点を持っていることだろう。近年の和歌の研究というと、受容史、あるいは、その時代にどのような意味があったのか、という観点から研究されることが多いように思う。その流れにあって、あくまでも現代の我々が読んで何を感じ取ることがあるのか、という観点が、この本の底流にある。このように、昔の文学作品……「古典」といっていいだろうが……を、コンテンポラリーな視点から味わうということは、現代において貴重な意味があると感じる。

2021年2月3日記