『琥珀のまたたき』小川洋子2021-03-06

2021-03-06 當山日出夫(とうやまひでお)

琥珀のまたたき

小川洋子.『琥珀のまたたき』(講談社文庫).講談社.2018 (講談社.2015)
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000318287

続きである。
やまもも書斎記 2021年3月5日
『ことり』小川洋子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/03/05/9353646

まったく適当にみつくろいながら、小川洋子を読んでいっている。この作品は、最近の作品ということになる。

この題材を普通の作家が書けば、ホラーということになるかなと思う。壁に囲まれたなかにくらす、ちょっと変わったきょうだいたち。そして、その母親。時々おこる事件。それを、どことなく神秘的で、ファンタスティックな物語に仕上げているのが、小川洋子の小説の特徴というか、あるいは、うまさというべきものなのであろう。

どういう枠組みになっている小説であるかは、読み始めてしばらくすればだいたい見当はつく。短いとはいえない作品ではあるが、そう難渋することなく最後まで読んでしまった。これは、この作者ならではの語りのたくみさによるものであろう。

作品になにかしらの寓意を読みとろうと思えばできなくもないだろう。だが、ここは、深入りすることなく、どこかしら奇妙な味わいのある作品として読んでおけばいいのだと思う。

そしていえることは、小川洋子の文学は、ささやきであることである。小声でひっそりと語りかけてくる。決して音吐朗々と高らかに大声でさけぶようなものではない。そのささやきに耳をかたむけて読むとき、その文学の声を聞くことができる。

2021年2月21日記

追記 2021-03-08
この続きは、
やまもも書斎記 2021年3月8日
『薬指の標本』小川洋子
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/03/08/9355030