映像の世紀プレミアム「東京 破壊と創造の150年」2021-04-05

2021-04-05 當山日出夫(とうやまひでお)

映像の世紀プレミアム「東京 破壊と創造の150年」

二〇二一年四月三日(土)の放送を録画しておいて、翌日になって見た。

今回のテーマは「東京」。だが、番組の内容としては、近代日本の歴史を大正から昭和にかけてふりかえるものになっている。そのものの見方は、歴史に対して非常に批判的である。

多くの映像が印象に残るものであったが、一番印象深かったのは、昭和二〇年三月一〇日の東京大空襲の写真。この大空襲については、そのリアルタイムでの映像が残されていないらしい。アメリカ軍も残さなかったらしいし、また、日本においても、そのような余裕はなかったということなのであろう。ただ一枚の写真が残っているだけである。これは、逆説的に、その空襲のすさまじさを物語る史料といっていい。

そして、その空襲のあとを視察する昭和天皇。昭和天皇の臨幸をまえに、空襲の死者の死体はすべて片づけられてしまっていた。戦争と昭和天皇については、多くの語るべきことがあるにちがいないが、一つの視点として、昭和天皇は戦争の時代にいったい何を見ていたのだろうか、ということがある。

ところで東京という町……私は、学生のころの一〇年ほどをすごしたことになる。一九七五年以降のことである。その当時の東京は、東京オリンピック(一九六四)を経て、大きく変貌した後の東京であった。私が東京に住み始めたころ、ちまたで流行っていた音楽のひとつが「木綿のハンカチーフ」である。まさに、この歌の歌詞のとおり、東へと向かう列車(新幹線)に乗って東京に行ったことになる。(この曲、たまたま作曲者の筒美京平が亡くなったということもあって、最近、テレビなどで良く耳にする。)

番組が東京の町のどこまでを描くか気になって見ていたのだが、東京オリンピックのあたりのことは出てこなかった。それより前、戦後の復興にともなって、野放図に膨張した東京の姿をしめすところでおわっていた。その一つの行き着く先が、東京オリンピック後の東京の町の姿であろう。(それを象徴するのが日本橋の首都高かもしれないのだが。)

東京という町を描くことは、まさに近代の日本を描くことにつながる。都市と何か、そこでの生活様式が、日本の生活の基本スタイルとして定着していくことになる。(だが、実際には、昭和三〇年代以降まで、日本の多くの人びとの生活は、地方の農村地域にあったともいえるのだが。)

関東大震災、太平洋戦争、この大きな二つの出来事によって、東京という町は破壊され、その都度、新しく生まれ変わってきた。その変貌の歴史は、まさに近代日本の歴史に重なる。東京の町でおこった出来事、行事、事件などを追うことで、近代の日本の歴史を見ようとしていると理解できる。

現代の東京、あるいは、日本のあり方に大きな影響を与えているのが、戦後の進駐軍の存在である。明治なって近代以降の歴史をとおして考えることもできるが、そのなかで、連合国側に占領されていた時代のことは、今となっては歴史のかなたのことかもしれない。そこを、この番組では、占領下の日本ということを、強く意識させる作り方がしてあった。

今の東京は将来の人びとの目にはいったいどう見えるだろうか。今の時点では、今年のオリンピックの開催は流動的である。もし開催になったとしても、昨年言われたような「完全な形での開催」ということは不可能な状況になってきている。場合によっては、新しい国立競技場は使われることなく終わってしまうことになるのかもしれない。

いずれにせよ、二一世紀になって二〇年ほどを経たころの東京の町をあらわすものは、COVID-19の影響で人影の途絶えた町並みであろうか。あるいは、もはやほとんどの人びとが興味を失ってしまった存在といってよい、国立競技場であろうか。

しかし、今の日本には、東京の町を、再度、再興へとたちむかわせていくだけのエネルギーをもちあわせてはいないように思えてならない。今の私には、東京の町に将来への希望を感じられないのである。

2021年4月4日記

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