『シュガータイム』小川洋子 ― 2021-04-26
2021-04-26 當山日出夫(とうやまひでお)
たまたま買った順番で書斎の床の上に積んである小川洋子の本を読んでいる。これは、小川洋子の最初期の作品ということになるようだ。
読んで思うことは次の二点。
第一には、やはり小川洋子ならではの、透明感のある作品であるということ。出てくるものごと、できごとの多くは、決してきれいなものばかりではない。主人公の女性は、食欲の異常がある……過食症といってもいいのだろう、食べることを止められないでいる……その弟は、それ以上に体格が成長しないという病気、付き合っている男性はいるが性的な関係は一切ない、その他、普通の作家が普通に書けば、グロテスクな露骨な描写になりがちな題材をあつかっていながら、全体としてきわめておちついた透明感のある文章でしあげてある。
第二には、これは青春小説として読めるということ。大学の野球のリーグ戦……おそらく東京六大学あたりをイメージするといいと思うが……のことが出てくる。毎年、季節がめぐってくれば野球の試合がある。それを見に行く仲間たち。そして、それが四年間つづいた後に、終わりとなる。そんなことになろうとは、はじめは思ってもいなかったのだが。若さとは、それを失うときに気づくものである。
以上の二点ぐらいが、この小説を読んで思うところであろうか。
あとがきによれば、作者としては、これだけは書いておきたかった物語であるらしい。それを意識してということは特にないが、しかし、小川洋子の文学世界が、青春小説の形で結実していると感じられる。
2021年4月13日記
コメント
トラックバック
このエントリのトラックバックURL: http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/04/26/9370993/tb
※なお、送られたトラックバックはブログの管理者が確認するまで公開されません。
コメントをどうぞ
※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。
※なお、送られたコメントはブログの管理者が確認するまで公開されません。
※投稿には管理者が設定した質問に答える必要があります。