『明治バベルの塔』山田風太郎 ― 2021-05-27
2021-05-27 當山日出夫(とうやまひでお)

山田風太郎.『明治バベルの塔』(ちくま文庫 山田風太郎明治小説全集12).筑摩書房.1997(新芸術社.1989)
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480033529/
続きである。
やまもも書斎記 2021年5月20日
『ラスプーチンが来た』山田風太郎
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/05/20/9379362
この本も再読になると思う。が、あまりはっきりとは覚えていない。山田風太郎の明治小説は、最初の「警視庁草紙」は文庫本で読んだのを覚えているが、その後、単行本を目にすると買って読んできた。たぶん、この本も読んでいるはずである。さがせば、まだどこかに残っているかもしれない。
収録するのは、次の作品。
明治バベルの塔
牢屋の坊っちゃん
いろは大王の火葬場
四分割秋水伝
たぶん、これらの作品、作者(山田風太郎)は、楽しんで書いたのだろうと感じる。どれも読んでみて面白い。また、小説としての創意工夫がある。明治という時代を設定することによって、このように面白い小説が書けるのだと、楽しんでいるようである。
最初の作品、本のタイトルにもなっているのは、「明治バベルの塔」。これは、主に黒岩涙香が登場人物といっていいだろう。その新聞『万朝報』をめぐる、いろんなできごとであり、人物である。
ところで、「とりなくこゑす」は、今、どれほど知られているだろうか。私は、高校生の時に、学校の授業で習って知っている。
明治になって、『万朝報』が募集した、新しい「いろは歌」である。
とりなくゑす ゆめさませ みよあけわたるひんがしを そらいろはえておきつへに ほふねむれゐぬもやのうち
そういえば、私の学生のころ、「週刊朝日」でパロディの募集をやっていたことがあった。文体模写などの、ことば遊びの公募である。そのなかに、「いろは歌」の募集もあったと記憶するのだが、どうだったろうか。
「明治バベルの塔」であるが……明治小説でありながら、同時に、暗号ミステリになっている。アナグラムなのであるが、二通りに解釈できて、しかも、それがストーリーの展開に見事に合致している、これはなかなかの難問である。
ここに収録の作品には、他の明治伝奇小説のような歴史への批判的まなざしは、あまり感じられない。それよりも、明治という時代に、こんな面白いことがあった、その逸話、出来事を発掘して小説に仕立てて見せる、その興味関心と手際の良さが光っている。
「四分割秋水伝」は、確かに、幸徳秋水を主人公にして、大逆事件をあつかっている。しかし、その事件を、そう批判的に見るということはない。それよりも、幸徳秋水という一人の人物を、多面的に描こうとしている、小説の作り方の遊びごころのようなものを、強く感じる。(しかし、大逆事件において、幸徳秋水は、実は無実であった、という観点はとりこんでいるのだが。)
また、同時に収録してある、「明治暗黒星」。星亨をあつかった作品である。星亨という人物をあつかっているのだが、星亨よりも、その周辺にいた人物がメインになっている。幕末から明治かけて、歴史の影で生きることになった人間の生き方といえるだろうか。それを、どこかしら軽妙な筆づかいで、軽く描いている。
さて、山田風太郎の明治小説を読んできて……ふと思って読み始めた(ほとんど再読)……残るは、『明治十手架』となった。ここは、続けて読んでしまおう。
2021年5月12日記
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480033529/
続きである。
やまもも書斎記 2021年5月20日
『ラスプーチンが来た』山田風太郎
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/05/20/9379362
この本も再読になると思う。が、あまりはっきりとは覚えていない。山田風太郎の明治小説は、最初の「警視庁草紙」は文庫本で読んだのを覚えているが、その後、単行本を目にすると買って読んできた。たぶん、この本も読んでいるはずである。さがせば、まだどこかに残っているかもしれない。
収録するのは、次の作品。
明治バベルの塔
牢屋の坊っちゃん
いろは大王の火葬場
四分割秋水伝
たぶん、これらの作品、作者(山田風太郎)は、楽しんで書いたのだろうと感じる。どれも読んでみて面白い。また、小説としての創意工夫がある。明治という時代を設定することによって、このように面白い小説が書けるのだと、楽しんでいるようである。
最初の作品、本のタイトルにもなっているのは、「明治バベルの塔」。これは、主に黒岩涙香が登場人物といっていいだろう。その新聞『万朝報』をめぐる、いろんなできごとであり、人物である。
ところで、「とりなくこゑす」は、今、どれほど知られているだろうか。私は、高校生の時に、学校の授業で習って知っている。
明治になって、『万朝報』が募集した、新しい「いろは歌」である。
とりなくゑす ゆめさませ みよあけわたるひんがしを そらいろはえておきつへに ほふねむれゐぬもやのうち
そういえば、私の学生のころ、「週刊朝日」でパロディの募集をやっていたことがあった。文体模写などの、ことば遊びの公募である。そのなかに、「いろは歌」の募集もあったと記憶するのだが、どうだったろうか。
「明治バベルの塔」であるが……明治小説でありながら、同時に、暗号ミステリになっている。アナグラムなのであるが、二通りに解釈できて、しかも、それがストーリーの展開に見事に合致している、これはなかなかの難問である。
ここに収録の作品には、他の明治伝奇小説のような歴史への批判的まなざしは、あまり感じられない。それよりも、明治という時代に、こんな面白いことがあった、その逸話、出来事を発掘して小説に仕立てて見せる、その興味関心と手際の良さが光っている。
「四分割秋水伝」は、確かに、幸徳秋水を主人公にして、大逆事件をあつかっている。しかし、その事件を、そう批判的に見るということはない。それよりも、幸徳秋水という一人の人物を、多面的に描こうとしている、小説の作り方の遊びごころのようなものを、強く感じる。(しかし、大逆事件において、幸徳秋水は、実は無実であった、という観点はとりこんでいるのだが。)
また、同時に収録してある、「明治暗黒星」。星亨をあつかった作品である。星亨という人物をあつかっているのだが、星亨よりも、その周辺にいた人物がメインになっている。幕末から明治かけて、歴史の影で生きることになった人間の生き方といえるだろうか。それを、どこかしら軽妙な筆づかいで、軽く描いている。
さて、山田風太郎の明治小説を読んできて……ふと思って読み始めた(ほとんど再読)……残るは、『明治十手架』となった。ここは、続けて読んでしまおう。
2021年5月12日記
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