『教科書名短篇-家族の時間-』中公文庫2021-06-07

2021-06-07 當山日出夫(とうやまひでお)

教科書名短篇

中央公論新社(編).『教科書名短篇-家族の時間-』(中公文庫).中央公論新社.2011
https://www.chuko.co.jp/bunko/2021/04/207060.html

中公文庫のこのシリーズの既刊の二冊は読んでいる。戦後の中学校の国語教科書に採録された作品のアンソロジーである。

やまもも書斎記 2020年3月13日
『教科書名短篇-人間の情景-』中公文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/03/13/9223694

やまもも書斎記 2020年3月14日
『教科書名短篇-少年時代-』中公文庫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2020/03/14/9223989

収録するのは次の作品。

あとみよそわか/うずまき 幸田文
トロッコ 芥川龍之介
尋三の春 木山捷平
黒い御飯 永井龍男
輪唱 梅崎春生
ひばりの子 庄野潤三
子供のいる駅 黒井千次
握手 井上ひさし
小さな手袋 内海隆一郎
ふたつの悲しみ 杉山龍丸
幸福 安岡章太郎
おふくろの筆法 三浦哲郎
私が哀号と呟くとき 五木寛之
字のない葉書/ごはん 向田邦子

読んだことのある作品(向田邦子とか芥川龍之介とか)もあれば、作家の名前は知っていても読んだことのない作品もある。あるいは、はっきりいってこの本で名前を知った作家もいる。

どれも、タイトルのとおり、「家族」にまつわる作品をあつめてある。そして、興味深いのが、この作品集を読むと、おそらく日本の近代の家族、家庭というものの歴史につながっているということかもしれない。といっても、現代のところまでにはおよんでいないが。おおむね、昭和の戦後のしばらくの時代までいったとこだろうか。

また、「家族」を描くことで出てくることになるのが、学校でもある。近代の学校の歴史にふれることにもなっている。

ところで、家族ということで、芥川龍之介からとるなら、私なら「蜜柑」かなと思うのだが、どうだろうか。あるいは、「蜜柑」は教科書には採録されていないということかもしれないが。

向田邦子については、今年になってから、そのエッセイのほとんどを文庫本で再読してみた。「字のない葉書」も「ごはん」も、すでに読んでいる。再読、再々読……になるだろう。なるほど、このようなアンソロジーにいれてみると、向田邦子もまた、昭和という時代の家族のあり方を、そのエッセイにつづってきた作家であったと思う。

2021年5月31日記