『街場の芸術論』内田樹2021-06-21

2021-06-21 當山日出夫(とうやまひでお)

街場の芸術論

内田樹.『街場の芸術論』.青幻舎.2021
http://www.seigensha.com/newbook/2021/04/05113253

内田樹の本は、なるべく読むようにしている。はっきりいって、読んでつまらないと思う本も中にはあるのだが……そのような本については、ここで言及することもしない……が、なかには、これはいいと思わせる本もある。この『街場の芸術論』は、いいと思った本の方にはいる。

「芸術論」となっているが、例によって、内田樹の本の多くがそうであるように、既存の文章の寄せ集めである。

最初にやや硬質な議論がある。表現の自由、言論の自由についての考察である。

それにつづいて、三島由紀夫論になり、小津安二郎論になり、宮崎駿論になり、村上春樹論になる。これらの論考、寄せ集めの文章とはいえ、読んでなかなか面白い。なるほどと感じるところがある。

内田樹という人は、「思想家」になってしまってしまったが、本を書き始めたころは、文芸評論家、あるいは、フランス現代思想研究者、という立場であった。私としては、「思想家」としてはどうかと思うところがいくつかあるのだが、しかし、文芸評論家という面においては、すぐれた着想の持ち主であることがわかる。

この本の終わりには、平田オリザとの対談があるが、これも興味深い。COVID-19のもとにおける現況をかんがみて、今後の日本の文化政策はどうあるべきか、考えるとことがある。ただ、対談の時期からみてどうかと思うことは、結局、豊岡市は演劇の街であることを、否定する道を選択したということがある。このことについても、どこかで言及しておくべきではなかったかと思われるが、どうであろうか。

2021年6月12日記