『姫君を喰う話』宇能鴻一郎2021-08-09

2021-08-09 當山日出夫(とうやまひでお)

姫君を喰う話

宇能鴻一郎.『姫君を喰う話-宇能鴻一郎傑作短篇集-』(新潮文庫).新潮社.2011
https://www.shinchosha.co.jp/book/103051/

宇能鴻一郎の名前は若くより知っていた。芥川賞を取ったことも知ってはいた。が、その読者ということもなく、今にいたっている。それは、私が読む本の範囲に、いわゆる官能小説がないということもある。

この文庫本には、次の作品を収録する。

姫君を喰う話
鯨神
花魁小桜の足
西洋祈りの女
ズロース挽歌
リソペディオンの呪い

このうち、「鯨神」は芥川賞作品である。(この作品名、「くじらがみ」と読むらしい。私の感覚としては、作品名としては「げいしん」と読みたい気がする。)

どれも面白い。読み始めてすぐに、その作品世界の中にはいっていく。ひきずりこまれる。圧倒的な文章力とでもいえばいいのだろうか。とにかく、いっきに作品のなかに没入する感覚がある。

そして、描かれるのは、「生」と「死」、それから「性」である。どれも人間の最も根源的なところに位置する何かである。それを、これらの作品はえぐり出している。そして、しいていうならば、土俗性とでもいうのだろうか、人間が大地と自然のなかで生きている息づかいが聞こえてくるようである。傑作ぞろいといってよい。

ただ、はっきりいって、この文庫本が出て手にするまで、宇能鴻一郎が存命の作家であることを知らなかった。かなりの高齢になるのだが、それでも創作の意欲は衰えないようだ。収録の作品のなかには、近年まで手を入れたものもふくまれている。

夏の暑い日、思わず読書にのめりこむという体験を久々にした。文章の迫力にひきこまれる体験のできる本である。これぞ文学といっていいだろう。

2021年8月8日記