『静謐』北杜夫2021-09-07

2021-09-07 當山日出夫(とうやまひでお)

静謐

北杜夫.『静謐-北杜夫自選短篇集-』(中公文庫).中央公論新社.2021
https://www.chuko.co.jp/bunko/2021/08/207093.html

北杜夫の作品は、中学生のころから高校生のころにかけてよく読んだ。大学生になってからは、あまり手にしていない。

中公文庫で、新しく作品集が出たので読んでみた。自選短篇集とあるのだが、なるほど、北杜夫は短編小説においても、すぐれた才能を発揮していると感じる。

収録してあるのは、次の作品。

岩尾根にて
羽蟻のいる丘
河口にて
星のない街路
谿間にて
不倫

黄いろい船
おたまじゃくし
静謐

題材、テーマは多岐にわたるが、概ね著者の初期の作品をあつめてある。どれもいい。読んでいて、まさしく北杜夫の文学世界だなと感じるところがある。

印象に残ったのは、冒頭の「岩尾根にて」、それから、「死」であろうか。著者の高校生時代(松本高等学校)の登山体験、それから、父親の斎藤茂吉の死のことをあつかっている。(ただ、「死」については、このような作品を書くこと自体に、読者の好みが分かれるところかもしれないとは思うが。)

読んで感じるところろは、この作品集全体を通じてであるが、それぞれの作品に共通するある感覚……それを、私の感じ取ったところとしては、「品の良さ」とでもいえばいいだろうか。ことばをかえて「上品」と言いかえると、ちょっと違う。場合によっては、グロテスクになりかねないような題材をあつかっていても、どことなく、「品」がある。あるいは、余裕があるといってもいいかもしれない。そして、その余裕がもたらすものは、そこはかとないユーモアであり、叙情性である。

北杜夫の作品は、若くよりいくつか読んできているし、近年になってからも読んでいるものがある。ただ、この作品集は未読のものであった。著名な作品としては、「航海記」「青春記」なども、再読してみた。ここは、もう一度『楡家の人びと』を読んでおきたくなっている。(これは、数年前に久しぶりに読みかえしている作品なのだが、これもさらに読みかえしてみたいと思う。)

北杜夫の作品が好みという人にとっては、おすすめの一冊である。

2021年9月4日記

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