『楡家の人びと 第一部』北杜夫2021-09-20

2021-09-20 當山日出夫(とうやまひでお)

楡家の人びと(第一部)

北杜夫.『楡家の人びと 第一部』(新潮文庫).新潮社.2011(新潮社.1964)
https://www.shinchosha.co.jp/book/113157/

『楡家の人びと』については、何年か前に読んで書いている。

やまもも書斎記 2017年4月8日
『楡家の人びと』北杜夫
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/04/08/8448584

やまもも書斎記 2017年4月10日
『楡家の人びと』北杜夫(その二)
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/04/10/8453740

やまもも書斎記 2017年4月12日
『楡家の人びと』北杜夫(その三)
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/04/12/8460638

やまもも書斎記 2017年4月13日
『楡家の人びと』北杜夫(その四)
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/04/13/8468203

やまもも書斎記 2017年4月14日
『楡家の人びと』北杜夫(その五)
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/04/14/8478445

やまもも書斎記 2017年4月15日
『楡家の人びと』北杜夫(その六)
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/04/15/8481451

やまもも書斎記 2017年4月26日
『楡家の人びと』北杜夫(新潮文庫)の解説
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/04/26/8500008

やまもも書斎記 2017年5月3日
『楡家の人びと』北杜夫(その七)
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2017/05/03/8512351

『楡家の人びと』は、私がこれまで読んできた小説のなかで、最も多くの回数読みかえしてきたものの一つである。若いとき、中学生だったか、高校生だったか、新潮社の単行本で買って読んだのを覚えている。若いとき、何度もくりかえし読んだ。

中公文庫の『静謐』で、短篇集を読んだら、無性に『楡家の人びと』をもう一度読んでみたくなったので読んでいる。

やまもも書斎記 2021年9月7日
『静謐』北杜夫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/09/07/9420414

この作品を読んで思うことは、すでに書いてしまったと思うのだが、さらに読んで思うことを書いてみるならば、次の二点になるだろうか。(第一部まで読みなおしたところで、であるが。)

第一には、『静謐』のときにも書いたことだが、作品としての「品の良さ」である。ユーモアがあり、叙情性がある作品であるが、それらの根底にあるのは、一種の上質さ、「品の良さ」とでもいうべきものである。

楡基一郎、それから楡病院、精神病の患者たち……これらは、描きようによっては、いかようにもグロテスクに描けるものであると思うのだが、この作品には、そのような感じは微塵もない。余裕をもって描いている。そこに私は、作者ならではの、「品の良さ」としかいいようのないものを感じる。

第二には、やはり時代を描いていること。

第一部では、大正の半ばから、大正時代が終わるところまでを描く。世界では、第一次世界大戦があり、日本も、その余得にあずかった時代である。これも、今から振り返ってみるならば、平和なひとときであったということになるのかもしれない。

今年になってから、NHKが「映像の世紀」「新・映像の世紀」と再放送したのを見ていたが、小説を読みながら、テレビでみた歴史上の出来事の映像が浮かんでくる。この時代のことを、あくまでも、登場人物の視点によりそう形で、描いている。ドイツにおけるヒトラーも、徹吉のドイツ留学の一場面として出てくる。

それも、関東大震災で一変することになるのだが、その震災の有様、また、朝鮮人のことなど、その当時の市井の人びとの視線にたって描き出されている。これは、必ずしも、歴史に対して批判的な立場ということではなく、その当時の人びとにとって、その時代の出来事がどのように映じていたかという視点がつらぬかれている。

以上の二点が、第一部を読みなおしてみて、特に思うことなどである。

それにしても、やはり、楡基一郎という人物は、日本の近代の小説のなかで特筆すべき人物の一人ということになるだろう。これほど破天荒で、そして、魅力的な人物は、他に知らない。この楡基一郎が、この後、第二部、第三部にいたっても影をおとしていくことになる。まさに、楡基一郎あっての、楡病院なのである。

続けて、第二部以降を読むことにしたい。

2021年9月4日記

追記 2021年9月27日
この続きは、
やまもも書斎記 2021年9月27日
『楡家の人びと 第二部』北杜夫
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/09/27/9427366

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