『原稿零枚日記』小川洋子2021-10-02

2021-10-02 當山日出夫(とうやまひでお)

原稿零枚日記

小川洋子.『原稿零枚日記』(集英社文庫).集英社.2013(集英社.2010)
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?jdcn=08745102946164000000

続きである。
やまもも書斎記 2021年9月25日
『アンジェリーナ』小川洋子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/09/25/9426791

不思議な小説である。まあ、これを小説といってよいのならば、であるが。このような形式……日記の形式を借りた連作短篇といってしまえばそういえなくもない……も、また現代における、一つの文学のあり方なのだろうと思う。

たぶん、小川洋子という作家は、うそをつくのが好きなのだろう。いや、これは適切ではないかもしれない。架空の物語をつくって、人をだます、その世界に引き入れることの楽しさ、ということを十分に味わっているように感じる。日記という形式をつかうことによって、どこまでがホントのことで、どこからがウソのことなのか、その境界があいまいになる。小説全体を読んで、なるほどこういう趣向の作品だったのかと納得がいく。

この作品は、他の小川洋子の作品がそうであるように、天下国家を論じるというようなタイプではない。また、作者の内面深くおりて掘り下げていくというタイプでもない。ただ、小説という架空の話しがあって、それを読む楽しさを堪能させてくれる作家である。

一見するとグロテスクになってしまうかもしれないような題材でも、小川洋子の文章にかかると、不思議な透明感のあるものに変わってしまう。例えば、作品の最初の方にでてくる、苔料理の話し。一見するといかにも変わった、あるいはゲテモノ趣味という感じがしなくもないが、読んでいくとそんな雰囲気はまったくない。むしろ逆に、一種の爽やかさとでもいうべきものを感じる。

日記という形をとっている。現代文学において、フィクションを語るということの意味を考えてもみたくなる作品である。

2021年6月6日記

追記 2021年10月9日
この続きは、
やまもも書斎記 2021年10月9日
『凍りついた香り』小川洋子
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/10/09/9430626

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