『凍りついた香り』小川洋子2021-10-09

2021-10-09 當山日出夫(とうやまひでお)

凍りついた香り

小川洋子.『凍りついた香り』(幻冬舎文庫).幻冬舎.2001(幻冬舎.1998年)
https://www.gentosha.co.jp/book/b2862.html

続きである。
やまもも書斎記 2021年10月2日
『原稿零枚日記』小川洋子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/10/02/9428700

読み始めは、ごく普通の小説である。小川洋子を適当に読んでいるのだが、この作品の前に読んだのがたまたま『原稿零枚日記』だったので、読み始めて、ごく普通の小説という印象を持って読み始めた。

小川洋子は、このような普通の感じの小説も書くのかと思って読み進めることになったのだが、途中で混乱する。舞台は、プラハと日本を行ったり来たりする。また、物語の時間も、過去と現在を行ったり来たりする。なんとも幻想的な、そして、小川洋子ならではの透明感のある描写で、物語は進行する。

登場するのは、調香師の男性。そして、のパートナーである女性。男性の弟。その他、幾人かの周辺の登場人物が出てくる。が、そんなには混乱することなく、一冊を読み終えてしまった。

いろんな題材がちりばめられている。調香師、スケート、プラハの街、数学、などなど。これらが渾然となって、小川洋子の文学世界を形成している。読み終わって何かが残るという作品ではなく、その小説を読んでいる時間をじっくりと味わうという作品である。

強いていうならば、男性の死をめぐって、その死後に、過去の物語を語る、さぐっていくということになるのだが、謎解きという印象はあまりない。少なくとも、私が読んだ印象としては、あまり強く感じない。

読んでいる時間を大切にする、そんな文学もあっていいのだと思う。

2021年6月9日記

追記 2021年10月14日
この続きは、
やまもも書斎記 2021年10月14日
『いつも彼らはどこかに』小川洋子
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/10/14/9431966