『茂吉彷徨』北杜夫2021-10-28

2021-10-28 當山日出夫(とうやまひでお)

茂吉彷徨

北杜夫.『茂吉彷徨-「たかはら」~「小園」時代-』(岩波現代文庫).岩波書店.2001(岩波書店.1996)
https://www.iwanami.co.jp/book/b256002.html

続きである。
やまもも書斎記 2021年10月23日
『壮年茂吉』北杜夫
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/10/23/9434273

四部作を順に読んでいって、三冊目である。この冊に書かれるのは、主に次の三つのことになる。

第一に、茂吉の妻との一件。

茂吉の妻……北杜夫の母である……は、ダンスホールで不倫をしたと報じられる。それをうけて、別居ということになる。このあたりの事情が、その当時の新聞など引用しながら語られる。

第二に、茂吉の恋。

茂吉自身が、れっきとした不倫をしている。その顛末が、残された書簡(茂吉のもの、相手の女性のもの)などを使いながら、詳細に描かれる。

第三に、戦時中の茂吉。

日中戦争から、太平洋戦争のころの茂吉の様子。その歌も、今の価値観からすれば、時代に迎合したものなっていく。このあたりのことが、時代背景のなかで茂吉が何を思ったか、綴られる。

以上の三つぐらいが、この冊の主な内容ということになろうか。

これまでと同様、息子の北杜夫の視点から描いてある。茂吉、あるいは、その家族のことなど、茂吉の子どもであるからこそ知り得る知識と感覚で、時にユーモアを交えて語られることになる。場合によっては、「楡家」などに言及しながら、また、自分自身の生いたちや学校生活の思いでなど交えながら、書かれている。

なかに、茂吉の柿本人麻呂研究のことが出てくる。これは興味深いテーマであるのだが……現代における『万葉集』の享受には、茂吉の影響ということが少なからず残っている……この本では、ここのところにあまり踏み込むことがない。ただ、人麻呂のことに打ち込んでいる、茂吉の姿を子どもの目にはどうであったか、その姿勢が興味深い。

2021年10月4日記

追記 2021年11月1日
この続きは、
やまもも書斎記 2021年11月1日
『茂吉晩年』北杜夫
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/11/01/9436671