『博士の愛した数式』小川洋子2021-11-08

2021-11-08 當山日出夫(とうやまひでお)

博士の愛した数式

小川洋子.『博士の愛した数式』(新潮文庫).新潮社.2005 (新潮社.2003)
https://www.shinchosha.co.jp/book/121523/

続きである。
やまもも書斎記 2021年11月4日
『口笛の上手な白雪姫』小川洋子
http://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/11/04/9437430

ふと思いたって小川洋子を読んでおきたいと思った。適当に読み始めたのだが、今の時点(二〇二一)で普通に手に入る文庫本で読んでいった。そして、これが、文庫本の小説としては終わりということになる。他にエッセイなどがあるが、それはまた別に考えることにしたい。

たぶん、小川洋子で一番有名な小説だろう。

確かに、傑作であるという気はするのだが、他の小川洋子作品を読んできた目からすると、なるほど、これも小川洋子の世界だなと感じるところが多い。八〇分しか記憶が持たない数学の博士、そこに通って仕事をすることになる家政婦、その子供のルート、主にこの三人で物語は進行する。

この作品を読んで感じるところは、これは数学の話しなのだが……小川洋子という作家は、おそらく学問的営為の本質をつかんでいる。あるいは、知ること、研究することの楽しさ、喜びの本当の意味はどこにあるのか、教えてくれる作品であるともいえるだろうか。

が、そのようなこととは別に、まさに小川洋子の小説世界になっている。透明感のある文章で、不思議な関係にある登場人物の姿を、さりげなく、だが、芯のある描き方で描いている。

この小説が、一般に広く読まれるのは、なるほどと思うところがある。とにかく、理屈抜きに面白いのである。八〇分しか記憶が持たないという数学の博士……これも、小川洋子の小説によく登場する、ちょっと変わった人物の一人ということになるのだろうが……と、家政婦の女生と男の子、この三人のおりなす物語が、なかに挿入される数学の知識と一緒になって、独特の世界を構築している。決して難解ではない。分かりやすい。そして、爽快な読後感の残る作品である。

2021年6月28日記

追記 2021年11月11日
この続きは、
やまもも書斎記 2021年11月11日
『小箱』小川洋子
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2021/11/11/9439278