『斎藤茂吉随筆集』岩波文庫2021-11-25

2021-11-25 當山日出夫(とうやまひでお)

斎藤茂吉随筆集

阿川弘之・北杜夫(編).『斎藤茂吉随筆集』(岩波文庫).岩波書店.1986
https://www.iwanami.co.jp/book/b249168.html

北杜夫を読んで、その後、斎藤茂吉の歌を読んだりした。これも読んでおきたくなって、古本で買った。

読んで思うことは、まさに、この斎藤茂吉あって、北杜夫があるという印象である。

第一に、品の良さ。

どの文章も端正で、品がある。書いてある内容は、かなりきわどいことにもふれてあるのだが、読んでいていやな気にはならない。素直に、その文章の世界にはいっていける。

第二、ユーモア。

斎藤茂吉は、ユーモアの人であることがよく理解できる。これは、その人格から自ずからにじみでるものである。大真面目に書いているのが、堅苦しくない。ちょっと距離をおいて眺めてみると、どことなくユーモアを感じる文章が多い。

この、文章の品の良さとユーモアは、北杜夫に受け継がれているものにほかならない。

斎藤茂吉というとどうしても歌人という印象が強い。アララギ派の重鎮ということで、万葉風の歌であり、そして、非常に繊細な感覚を詠んだ歌人というイメージである。だが、散文において、歌人とはまたちがった才能を発揮している。この随筆集など、もっと読まれていい作品だとつよく思う。

なお、餅のことを「おかちん」ということは、『楡家の人びと』に出てくるエピソードの一つであるが、それをこの本のなかでも確認できる。『楡家の人びと』を読んでいると、より面白く読める本でもある。

2021年11月22日記