『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬2021-12-23

2021年12月23日 當山日出夫(とうやまひでお)

同志少女よ、敵を撃て

逢坂冬馬.『同志少女よ、敵を撃て』.早川書房.2021
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これがデビュー作であるという。おどろくしかない。

主な舞台は、第二次世界大戦のころのソ連と東欧。独ソ戦である。ソ連軍において、女性だけで組織された狙撃兵部隊。そこに加わることになる少女、セラフィマ。過酷な訓練の後、独ソ戦の激戦地を転戦する。そして、最後にめぐりあうことになる仇敵。

久々に読んだ戦争冒険小説である。最近では、戦争冒険小説、戦争ミステリ、という範疇の作品が少なくなったように思う。

だが、これはただの戦争冒険小説ではない。少女が主人公であり、狙撃兵であり、ソ連軍として独ソ戦を戦う。そこにある、友情、軍人としての職務、憎しみ、悲しみ……ありとあらゆる感情をのみこんで、少女は戦場にたつ。

この作品、アガサ・クリスティー賞の大賞受賞作ということだが、他にも賞を取るにちがいない。(すくなくとも、これを書いている時点では、直木賞の候補になっている。)

この小説が傑出しているのは、その戦争観にあるといってもいいかもしれない。女性の目、少女の目から、そして、ソ連の目から、独ソ戦を見ている。そこには、冷徹な狙撃兵としての闘志もあれば、女性としての感情もある。そして、何よりも重要だと思うのは、戦争と性の問題を避けてはいない。いったい戦場で何があったのか、冷静に見る視点がある。

また、独ソ戦をソ連の側から描くといっても、必ずしも、ナチス=悪、という図式になっていない。ソ連共産党賛美でも忌避でもない。ソ連軍、ドイツ軍としての、軍人、兵士のおかれた立場や生き方にせまっている。いうならば、戦場の論理を描いているともいえるだろうか。

どれほどこの作品が受け入れられるか、どのような賞を取ることになるのか、見ていきたいものである。

2021年12月20日記