『人間の絆』(上)サマセット・モーム/金原瑞人(訳)/新潮文庫2022-01-04

2022年1月4日 當山日出夫(とうやまひでお)

人間の絆(上)

サマセット・モーム.金原瑞人(訳).『人間の絆』(上)(新潮文庫).新潮社.2021
https://www.shinchosha.co.jp/book/213030/

新潮文庫で、モームの『人間の絆』の新しい訳本が出たので読んでいる。まず上巻である。

モームについては、新潮文庫や岩波文庫などの短篇集をこれまで読んだ。実に巧みな短編作家であると感じる。『月と六ペンス』も近年になって読んでいる。

『人間の絆』は、昔、岩波文庫だったかと思うが、読みかけて中断してしまった作品である。新潮文庫の新しい本が出たので、これで再び読んでみることにした。

上巻まで読んで思うことは、やはりストーリーの運びのたくみさである。最初、英国で主人公が生まれるあたりの記述は、その社会的背景、宗教や教育についての風習などになじみがないせいか、ちょっと読みづらいと感じるところがある。しかし、フィリップは成長して、学校を去り、ドイツに行き、次は、フランスに行き画家になろうとする。画業に挫折して、英国もどり今度は医者になろうとする。

なんとも、移り変わりの激しい生き方であることか……と思って読むのだが、あまり退屈することなく、上巻を読み進んでしまった。

これは、「教養小説」ということらしのだが……ジャパンナレッジで見てみると、概ねそのように書いてあるのだが……どうも、フィリップは、成長しているようには見えない。様々な人生の紆余曲折があるのだが、それをフィリップはどこかさめたような目で自分自身を見ているところがある。強いていえば、フィリップは、あまり素直な人格でない。

また、フィリップはあるとき信仰を捨てている。これは、英国での教会で生いたちということを考えてみるならば、かなり大胆な人生の選択である。

だが、このあたりの主人公の造形が、この小説の面白さなのであろうとも思う。

そして、興味深いのは、パリでの画家を目指しているころの描写。なるほどその当時のパリの画家、あるいは、画家をめざす人びとはこんなふうに生活して、こんなことを考えていたのかと、いろいろと面白い。芸術の世界である。最終的には、才能があるかどうか……ここのところを、自分でどう自覚するかにかかっている。

英国で医者になろうとするところで、ある女性に恋する。それも、結果的にふられるというところで、上巻はおわる。つづけて、下巻を読むことにしよう。

2021年11月28日記

追記 2022年1月6日
この続きは、
やまもも書斎記 2022年1月6日
『人間の絆』(下)サマセット・モーム/金原瑞人(訳)/新潮文庫
https://yamamomo.asablo.jp/blog/2022/01/06/9453860

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