『盲目物語 他三編』谷崎潤一郎/中公文庫2022-01-15

2022年1月15日 當山日出夫(とうやまひでお)

盲目物語

谷崎潤一郎.『盲目物語 他三編』(中公文庫).中央公論新社.2021
https://www.chuko.co.jp/bunko/2021/12/207156.html

『少将滋幹の母』につづけて読んだ。いや厳密には、二冊の中公文庫版の谷崎作品を、いったりきたりしながら読んだのだが。

収録するのは、

盲目物語
聞書抄 第二盲目物語
三人法師
紀伊国狐憑漆掻語

「盲目物語」も、若いときに読んだ記憶がある。しかし、今ではすっかり忘れてしまっている。読んで感じるところとしては、次の二点ぐらいになるだろうか。

第一には、盲目ということ。

タイトルのとおり、盲目の人間の語りでなりたっている。時代設定としては、戦国時代。この小説の描いているのは、盲目であるがゆえに感じることのできる美しさというものである。盲目である。見えてはいない。しかし、実際に見えている以上に、描き出される人物像ははっきりとしている。より明瞭なイメージとして、立ち現れてくるといっていいだろうか。このような盲目の世界を描き得たというのは、やはり『春琴抄』の作者ならではという気がする。

第二には、語りのうまさということ。

盲目の人間の語りという体裁で書かれている。そのことを意図してであろうが、本文の表記が仮名の多い文章で、しかも息が長い。読んでいて、思わずにその語りの世界の中に引き込まれてしまうような感覚になる。独特の仮名の多い表記法の文章と、語りの文章とが相まって、この小説の作品世界を構成している。

以上の二点を、「盲目物語」については思ってみる。

語りのうまさという意味では、他に収録されている三作品「聞書抄」「三人法師」「紀伊国狐憑漆掻語」も、見事というほかはない。この中公文庫版の「盲目物語」は、語りの巧みさという点で選んだ編集のように思える。

ところで、作品の評価とは別のことになるが、この中公文庫版には、ちょっと考えられない誤植がある。踊り字「くの字点」の、半分が欠落しているのが目についた。いったいどういう本の組版をしたら、このような誤植が生じるのか、不審に思うほどである。

中公文庫版の、新しい谷崎潤一郎の作品というと、『少将滋幹の母 他三編』と『盲目物語 他三編』になる。他にも中公文庫版で谷崎作品はあるのだが、版が古い。小さい字を読むのがつらくなってきているので、このつづきの谷崎作品は、新潮文庫版で読むことにする。

2022年1月14日記