『蓼食う虫』谷崎潤一郎/新潮文庫 ― 2022-01-28
2022年1月28日 當山日出夫(とうやまひでお)
谷崎潤一郎.『蓼食う虫』(新潮文庫).新潮社.1951(2012.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/book/100507/
新潮文庫は、現代仮名遣いの方針だから、『蓼食う虫』になる。しかし、本文は現代仮名遣いでもいいのだが、タイトルは元の形を残して『蓼食ふ虫』であった方がいいような気がする。まあ、なんとなくの好みの問題ではあるのだが。
『蓼食う虫』の新聞連載は、昭和三年から四年にかけてである。いうまでもなく、谷崎の関西移住後の作品になり、この作品の背景には、その細君の譲渡事件ということがある。これは、日本の近代文学史のなかで著名なできごとだろう。
ここに谷崎潤一郎の女性観というべきものを見てとることもできようが、しかし、純然とこの作品のテクストを読んでおきたい気になる。そこでうかびあがってくるものは、谷崎潤一郎ならではの、美意識、美的感覚というものである。それは、女性に対してのものもあるし、日常生活のあれこれについてのものもある。また、人形浄瑠璃などの芸能についてのものもある。
これを読んで思ったことは、この作品の根底にある美意識が、『陰翳礼讃』などにつらなるものである、ということである。
ところで、この作品のなかに、淡路人形浄瑠璃を見物に行くシーンがある。淡路人形浄瑠璃は、見た記憶がある。どこでだったろうか。東京の国立劇場の小劇場での公演だったろうか。文楽の人形にくらべて、ひとまわり人形が大きくつくってあることを、覚えている。(東京にいたころは、文楽公演は大体見ていたし、また、民俗芸能、伝統芸能などの公演も、かなり通ったものである。)
読んでいて、昔、若い時に見た、淡路人形浄瑠璃のことを思い出しながら読んだ。
その他、この作品の随所に出てくる、美的感覚……それは、女性に対するものもある。妻を別の男に譲るということは、常識的にはあまりないことのようだが、この作品を読んでいると、そういうふうに考える男の気持ちに、なんとなく納得できる。ここにあるのは、男女の関係というよりも、どのような女性とどのような関係をもっていきたいかという、美意識である。美意識に基づいて、あり得べき夫婦の関係も導き出されている。
この作品を読んで、作者の美意識を軸に……男女関係ではなく……読んでいるというのも、私自身がそれなりに歳をとってしまったということなのかとも思ったりする。
2022年1月27日記
https://www.shinchosha.co.jp/book/100507/
新潮文庫は、現代仮名遣いの方針だから、『蓼食う虫』になる。しかし、本文は現代仮名遣いでもいいのだが、タイトルは元の形を残して『蓼食ふ虫』であった方がいいような気がする。まあ、なんとなくの好みの問題ではあるのだが。
『蓼食う虫』の新聞連載は、昭和三年から四年にかけてである。いうまでもなく、谷崎の関西移住後の作品になり、この作品の背景には、その細君の譲渡事件ということがある。これは、日本の近代文学史のなかで著名なできごとだろう。
ここに谷崎潤一郎の女性観というべきものを見てとることもできようが、しかし、純然とこの作品のテクストを読んでおきたい気になる。そこでうかびあがってくるものは、谷崎潤一郎ならではの、美意識、美的感覚というものである。それは、女性に対してのものもあるし、日常生活のあれこれについてのものもある。また、人形浄瑠璃などの芸能についてのものもある。
これを読んで思ったことは、この作品の根底にある美意識が、『陰翳礼讃』などにつらなるものである、ということである。
ところで、この作品のなかに、淡路人形浄瑠璃を見物に行くシーンがある。淡路人形浄瑠璃は、見た記憶がある。どこでだったろうか。東京の国立劇場の小劇場での公演だったろうか。文楽の人形にくらべて、ひとまわり人形が大きくつくってあることを、覚えている。(東京にいたころは、文楽公演は大体見ていたし、また、民俗芸能、伝統芸能などの公演も、かなり通ったものである。)
読んでいて、昔、若い時に見た、淡路人形浄瑠璃のことを思い出しながら読んだ。
その他、この作品の随所に出てくる、美的感覚……それは、女性に対するものもある。妻を別の男に譲るということは、常識的にはあまりないことのようだが、この作品を読んでいると、そういうふうに考える男の気持ちに、なんとなく納得できる。ここにあるのは、男女の関係というよりも、どのような女性とどのような関係をもっていきたいかという、美意識である。美意識に基づいて、あり得べき夫婦の関係も導き出されている。
この作品を読んで、作者の美意識を軸に……男女関係ではなく……読んでいるというのも、私自身がそれなりに歳をとってしまったということなのかとも思ったりする。
2022年1月27日記
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