『眠れる美女』川端康成/新潮文庫2022-03-03

2022年3月3日 當山日出夫(とうやまひでお)

眠れる美女

川端康成.『眠れる美女』(新潮文庫).新潮社.1967(2010.改版)
https://www.shinchosha.co.jp/book/100120/

これも若いとき時に読んでいる。若いときに読んだ印象としては、エロティシズムの小説と憶えている。だが、この年になって……もう、この作中に出てくる老人とほぼ同じ年齢になってしまっている……読んでみると、エロティシズムの小説というよりは、老いを描いた小説として読める。いや、そのような部分をより強く意識して読むようになったということであろうが。

川端康成の代表的な作品であり、最も著名なものの一つであろう。

この作品、まさに性と生、そしてそのゆきつくはてにある老いの世界を見事に描ききっていると感じる。傑作である。

ただ、他の川端作品である『みずうみ』などを読んだ目で見てみるならばであるが、これを一九世紀的なリアリズム小説の延長で理解してはいけないのかもしれない。ひょっとすると、老人が体験したと思っていること……眠らされた少女とのこと……これは、幻影なのであろうか。ふと、そんなことを思ってみる。そう思うと、この作品には、全編に底流として流れている意識の流れというようなものを感じ取ることも可能だろう。意識の流れが連続している、いくつかの短篇のつらなりとも読むことができる。これは、牽強付会な読み方だろうか。

そうではなく、やはり、老いとエロティシズムの小説として理解しておくのが、普通の読み方であるのだろうか。

この作品は、年齢に関係なく、それぞれの年に応じて、何かしら感じるところがあるはずである。だからこその、名作、傑作といえる。

文体、文章の体裁も気になる。この作品は、センテンスが長く、読点「、」も少なめである。段落も長いものが多い。先に読んだ『古都』などは、センテンスが短く、読点が多い。段落も多くなるように改行してある。このあたり、川端康成の文体論としても興味深いところがある。

新潮文庫版の『眠れる美女』には、他に「片腕」「散りぬるを」を収録してある。読後の印象が独特なのが「片腕」。川端康成というのは、こんな小説を書く作家だったのかと、認識を新たにするところがある。若いとき、確か新潮文庫版で読んだと思うのだが、ほとんど憶えていない。「片腕」の文学的魅力について、私の若いときに分からなかったということなのだろう。

2022年2月8日記

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