『日曜日 蜻蛉』志賀直哉/中公文庫2022-03-07

2022年3月7日 當山日出夫(とうやまひでお)

日曜日 蜻蛉

志賀直哉.『日曜日 蜻蛉-生きものと子どもの小品集-』(中公文庫).中央公論新社.2021
https://www.chuko.co.jp/bunko/2021/12/207154.html

この文庫本は、志賀直哉の短編作品集である、『日曜日』(一九四八)、『蜻蛉』(一九四八)を合冊したものである。一部、重複している作品は、整理して編集してある。

志賀直哉については、若いころから読んでいる。学校の教科書にも採録されていたのを憶えている。

近年になっても読んでいる。『暗夜行路』を、読みなおしてみたりした。(これは若いときに手にした作品である)。また、新潮文庫版で、作品集が二冊で出ているのを読んでもみた。

中公文庫で、新たに短篇集として、新編集で出たので手にしてみた。

読んで思うことは、次の二点ぐらいである。

第一には、やはり志賀直哉は短編小説の名手であること。

どの作品も、たいていは身近なところに題材をとっている。それは、多くの場合、子どもであったり、生きものであったりであるが、これらを題材にして、短い作品を仕上げている。

これを読んで気づくのだが、「小僧の神様」も「清兵衛と瓢箪」も、子どもを題材にした作品であることに気づく。また、「城の崎にて」も、これは生きものをあつかった作品の系譜に位置づけられることになる。このような短篇集……志賀直哉の作品としては、この文庫本の編集の方が、もとの形に近いものになるのだが……で読んでみることによって、なるほど志賀直哉とは、このような系譜の作品群を書いていたのかと、認識を新たにするところがある。

第二に、知った地名が出てくること。

これは、この作品集の文学的な方面とはまったく関係ないのだが、読んでいると、今住んでいるところの近くの地名がいくつか出てくる。志賀直哉が奈良に住んでいたとき、今の私の住んでいるあたりまでは、日常の行動範囲であったことがわかる。だからといって、どうということはないのかもしれない。しかし、その当時……戦前になるが……の、近鉄の電車と駅、道路はどんな状態であったのか、これは気になるところでもある。

以上の二つぐらいが、この中公文庫版を読んで思うことなどである。

さらに書いてみるならば、この作品集は、生きものをあつかった作品が多い。犬などのことが出てくる。読んでいると、現代の日本社会の犬に対する対応……それは、犬というよりも、ペットとして家族の一部というあつかいであることが多いと思うのだが……これも、時代とともに大きく変わってきていることが分かる。場合によっては、今の若いひとたち、あるいは、子どもたちが、この作品集を読むと、幾分の違和感を感じるところがあるかもしれない。

2022年3月1日記