『昭和の名短篇』荒川洋治(編)/中公文庫2022-03-18

2022年3月18日 當山日出夫(とうやまひでお)

昭和の名短篇

荒川洋次(編).『昭和の名短篇』(中公文庫).中央公論新社.2021
https://www.chuko.co.jp/bunko/2021/11/207133.html

収録するのは、次の作品。

灰色の月 志賀直哉
草のいのち 高見順
萩のもんかきや 中野重治
橋づくし 三島由紀夫
軍用露語教程 小林勝
水 佐多稲子
おくま賛歌 深沢七郎
一条の光 耕治人
明治四十二年夏 阿部昭
神馬 竹西寛子
ポロポロ 田中小実昌
泥海 野間宏
葛飾 吉行淳之介
百 色川武大

出た時に買ってあったが、しばらく積んであった本である。谷崎潤一郎、川端康成と、清朝文庫本を中心に読んできて、積んであった本を読んでおきたくなって、手にした。

昭和の戦後に発表された短篇を、年代順に編集してある。馴染みのある作家もいれば、ほとんど知らなかった作家もいる。あるいは、他の本ですでに読んだことのある作品も収録されていたりもする。

順番に読んでいって……なるほど、このアンソロジーは、時代を映しているなと感じるところがある。戦後まもなくの時代から、昭和という時代のおわりごろまでを背景にした作品がならんでいる。

また、この本を読んで感じるのは、短編小説の妙である。文学を読む楽しみは様々にあることはたしかであるが、この本に収められたような短編小説には、独特の面白さがあることがわかる。さて、今の日本の文学で、このような短編小説はどうなっているのだろうか。近年の文壇界隈の事情に疎い私としては知らないでいる。これは昭和の短篇集であるが、平成から令和にかけての短篇集も、編集できるものなら読んでみたいという気がする。短編小説というのは、近代の日本文学のなかで、一つのスタイルとして確立してきたということは言えるであろう。

おそらく、今ではこの本でしか読むことのできない作品もいくつかあるようだ。たくみに編集された文庫本の短篇集であると言っていいだろう。

2022年3月6日記