『天使が見たもの』阿部昭/中公文庫2022-03-19

2022年3月19日 當山日出夫(とうやまひでお)

天使が見たもの

阿部昭.『天使が見たもの-少年小景集-』(中公文庫).中央公論新社.2019
https://www.chuko.co.jp/bunko/2019/04/206721.html

収録してあるのは、次の作品。

子供部屋
幼年時代
 Ⅰ馬糞ひろい
 Ⅱ父の考え
 Ⅲあこがれ
子供の墓
自転車
言葉
天使が見たもの
海の子
家族の一員
三月の風
みぞれふる空
水にうつる雲
あの夏あの海

阿部昭という小説家を、それと意識して読むことはありまりなかった。これは、中公文庫のオリジナル編集の短篇集。これによると、多くの作品が学校の教科書に採用されているとのことである。が、残念ながら、私の経験では、阿部昭の作品を、学校の教科書で読むことはなかった。(あるいは、採録されていたのかもしれないが、受業で読むということはなかったように記憶する。)

この文庫本は、タイトルのとおり、少年の登場する作品をあつめてある。ほぼ時代順に編集してあるようだ。読んでいくと、戦後まもなくの時代のころから、その後の日本へと続く歴史をたどるような気もしてくる。

さまざまな歴史的背景を感じる作品であるが、基本的に子ども、それも少年が登場する。といって、子どもの作品集という感じでもない。少年とその家族、特に親の視点が、複雑に交錯するところがある。

読んで特に印象にのこるのは、この作品集のタイトルにもなっている、「天使が見たもの」であろうか。母子家庭の少年と母親の話。読み始めて、おもわずにそのストーリーのなかに入って読みふけっていることに気づく。破局的な結末をむかえる作品なのであるが、後味は悪くない。これは、登場人物を見る作者の目のあたたかさ、というのだろうか。ただ、事実を叙述するのではなく、距離をおきながらも、その心のうちによりそっていく、作者の視点を感じる。

戦後の日本における、家族というものを考えるところがいくつかある。小説に描かれている家族は、どれも円満な家庭ばかりということではない。どこかひずみがあるような、しかし、それは時代を映してもいると感じるところがある。

この文庫本を読み終わって、戦後日本……昭和の戦後……という一つの時代の流れを、強く感じる。これは、すぐれた短篇集になっていると感じる。

2022年3月6日記