『歌のわかれ 五勺の酒』中野重治/中公文庫2022-03-24

2022年3月24日 當山日出夫(とうやまひでお)

歌のわかれ

中野重治.『歌の別れ 五勺の酒』(中公文庫).中央公論新社.2021
https://www.chuko.co.jp/bunko/2021/12/207157.html

中野重治は、若い時から気になっていた作家の一人だった。しかし、特に読むということなく今まできてしまった。折に触れて、その作品や生き方についての評論など、これまで多く目にしてきたかと思う。

収録するのは、次の作品。

歌の別れ
春さきの風
村の家
広重
米配給所は残るか
第三班長と木島一等兵
軍楽
五勺の酒
萩のもんかきや

この他、いくつかのエッセイなどを収録してある。

読んで印象に残るのは、「村の家」である。この作品については、これまでにいろんな評論などで言及されるのを読んできたかと思う。だが、この作品自体をきちんと読むのは始めてである。

読んで思わずに読みふけってしまった。思わずに作品の語り……それは、村の旧家の父親のことばなのだが……のなかに、引きずり込まれる。なるほど、日本の近代文学における、「家」「故郷」「家族」とはこのようなものかと、深く感じ入るところがある。

そして、「転向」である。日本の近代文学において、「転向」ということが、大きなテーマであった時代がある。それは、文学史の知識として知っているというものに、今ではなっているかもしれない。が、これを読むと、「転向」ということの持つ、一人の人間の生き方についての重みというようなものを感じずにはいられない。

それから、「五勺の酒」。日本の近代文学のなかで、天皇、天皇制というものを、これほど真正面から語った作品は、希かもしれない。その語っていることとへの賛否はあるだろう。だが、この作品を読むと、天皇、天皇制について論じることが、まさに文学たりえていることに気づく。それほど迫力のある作品になっている。

中野重治という作家の残した作品、それからその生き方、これは、これからも日本の文学史のなかで生き残るものであるにちがいない。

2022年3月19日記

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