『新編 閑な老人』尾崎一雄/荻原魚雷(編)/中公文庫2022-03-26

2022年3月26日 當山日出夫(とうやまひでお)

閑な老人

尾崎一雄.荻原魚雷(編).『新編 閑な老人』(中公文庫).中央公論新社.2022
https://www.chuko.co.jp/bunko/2022/02/207177.html

若い時に尾崎一雄の小説を読んだと憶えている。たしか「暢気眼鏡」だった。これは、記憶では、NHKがドラマ化していて、その原作ということで読んだはずである。高校生のころになるはずである。

私小説家としての尾崎一雄の名前はそのころから憶えていた。が、その後、その作品に触れることなく時がたってしまった。中公文庫で、新しく『閑な老人』として出たので読んでみることにした。(解説を書いている荻原魚雷によると、以前にも中公文庫で同タイトルで短篇集が出ていたとのことである。これは読んでいない。新しい本は、編集を変えて収録作品にも異同があるとのことである。)

私は、あまり私小説というものを好まない。少なくとも、好んで読んで来たということはない。が、『閑な老人』ということで読んでみると、これがいい。何よりも文章がうまい。なんとなく私小説というというと陰湿なイメージが、文学史的にはあるのかと思うが、そんなことはない。

この短篇集は、まさに老人の文学と言ってよい。これは、おおむね作者が年をとってからの作品を集めたということもある。老人の暗さというものがない。なるほど、年を取るというのは、こういうことなのかと、妙に納得して、あるいは、共感して……私自身も、この小説を書いている作者とほぼ同じような年齢になっている……読むところがある。

無理をせずに、自然と年をとって、身の周りの自然や人びとと調和して生きていくことができるならば、これもまた一つの年の取り方であり、人間の生き方だと思うところがある。

2022年3月13日記