『少年』川端康成/新潮文庫2022-04-09

2022年4月9日 當山日出夫(とうやまひでお)

少年

川端康成.『少年』(新潮文庫).新潮社.2022
https://www.shinchosha.co.jp/book/100106/

この文庫本が出たことによって、今年が、川場康成の没後五〇年であることを、改めて知った。たまたまであるが、今年は、新潮文庫で読むと決めて、これまでに、谷崎潤一郎を読んで、その次に、川端康成を読んできた。だいたい読んだところで、折良く新潮文庫で刊行になったので読んだということになる。

傑作である。読んで思うことは、やはり次の二点になるだろう。

第一に、素朴な疑問として、本当のことなのだろうかということ。

文学作品を読んで、どこまで事実に基づくことなのか詮索するのは、無意味なことはよく分かっているつもりではいる。しかし、この作品を読むと、どうしても気になる。作品中に出てくる、日記とか、昔の作文とか、これは本当のものなのだろうか。あるいは、そっくり作り物ということになるのだろうか。無意味な問いであることは承知のうえで、だが、どうしても読みながら気になったところである。

第二、傑作であること。

同性愛、少年愛の物語なのだが、なるほど、川端康成というのは、このような小説を書く作家であったのかと、認識を新たにしたところがある。これがそっくり作り物、フィクションとして書いたとするのならば、その文学的創造力に敬服するしかない。

ただ、この小説が刊行になったということは、時宜を得たものであることはたしかである。性をめぐる多様性ということが重視されるようになった社会において、文学の世界で、性をどのように描いてきたか、改めて振り返ってみる必要はあるにちがいない。

以上の二点のことを思ってみる。

さて、川端康成を順番に読んできて、だいた読んだだろうか。残っている作品としては、『掌の小説』がある。ときどき手にして読んでいる。川端康成の次は、三島由紀夫を読もうと思う。

2022年4月8日記