『死亡告示』ジェフリー・ディーヴァー/池田真紀子(訳)2022-06-03

2022年6月3日 當山日出夫(とうやまひでお)

死亡告示

ジェフリー・ディーヴァー.池田真紀子(訳).『死亡告示-トラブル・イン・マインドⅡ-』(文春文庫).文藝春秋.2022
https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167918842

『フルスロットル』のつづきの短篇集である。どれもジェフリー・ディーヴァーならではの作品という印象がある。上質のエンタテインメントのミステリ(広義の)である。

印象にのこるのは、「永遠」。短篇というよりも中編といった方がいいか。文庫本の半分ほどがこの作品になっている。

登場する警察官がいい。数学が得意で統計でものを考える若い警察官。一方、昔ながらの流儀で直感的に行動する先輩。この二人のコンビは魅力的である。(だが、これも最後まで読むと、さらに裏がある。)

そして、題材とされていることが興味深い。現代の社会の課題の一つである、生命倫理にかかわるテーマをあつかっている。ジェフリー・ディーヴァーという作家は、きわめて現代的な作家である。今、この社会で問題になっている最先端の出来事や事件を、題材に選んでいる。この作品もその一つといってよい。技術的に可能かどうかということもあるが、この作品に出てきたようなことが、まさに今の社会で問題になることである、これは確かなことであろう。

また、タイトルにもなっている「死亡告示」。これは、読めばすぐに結末がわかるつくりなのだが、面白いのは、おそらく、これまでのリンカーン・ライムのシリーズを読んでいるであろう読者を念頭に書いてあることである。犯人の設定もそうであるし、また、中にでてくるリンカーン・ライムの経歴についての記述も、読んでなるほどと思うところがある。

2022年5月17日記